15日目 製本

 朝から企画提案書の修正作業だった。


「どうせまた修正が入るから、製本しない方がいいですね」

「うん、でも製本しないと雰囲気とか感覚が伝わらないから、一応本の形にして提出しろって社長指示なんだ」

「お客さんじゃなくて社長が見るだけなのに? 意味ないですね」


 支社の誰かと上司のアムラトが話している声が聞こえる。社内でも不満の声がだんだん広がっているようだ。

 コタンは自分に割り当てられたページの書き直しを行っていた。


「ここってどうすればいいと思います?」

「私も悩んでるんですよ~……」


 隣の席のムリエラに聞いてみたが、彼女もほとほと困っているようだった。

 ほどなくアムラトが呪文書作成士デザイナー写本師オペレーターの席を順に周り、どう修正すればよいかアドバイスを始めた。


「ムリエラさんいる?!」


 突然ムリエラの机の上の水晶玉が光って、社長の声が響いた。強制的に音声を出す方式で、社長が話しかけてきたのだ。


「はい、おります!」

「支社内にアムラト君いない? 出ないんだけど?! あのね、いまみんなでやってもらっている修正作業、今日のお昼までにやっといてくれるかな? 午後からまたみんなでミーティングして、内容を見ていくからね。もう2日後には王都に提出しなきゃならないものだからね。アムラト君とみんなに伝えといてくれる? じゃあよろしくね!」


「アムラトさん、えっと」

「はい、聞こえたよ……。ごめん、みんなそういうわけだから、修正作業急いでね……」


 コタンは暗い顔で考えた。

 今10時で、お昼に行くのが13時だとして、おそらく本社の製本作業に1時間半はかかるだろうから、11時半には仕上げなきゃいけない。その前に上司のアムラトに見せなきゃいけないし、おそらくそこで修正も入るから11時には仕上げるとなると、あと1時間しかない。3ページあるから、1ページ20分でこなせば何とか……。


 その後、コタンが自分のページをアムラトに提出できた頃には15時を回っていた。

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