30日目 退職者は続く

「お世話になりました。短い間でしたが、トート・アモン社長並びに皆様には大変お世話になりました。皆様のご多幸を祈っております。 ジンガラ支社 ヴァルブロソ」


「よろしくお願いいたします。右も左もわからない私ですが、どうぞよろしくおねがいいたします! 本社勤務〈全自動〉チーム配属予定 パブリオ」


 1枚の回覧の中に、退職者と新入社員のあいさつが並んでいた。


「また新しい人が入ってきたんですね。で、ヴァルブロソさん辞めちゃうんですね……」

「そうだね……」


 隣の席のナフェルタリが話しかけてきた。彼女も、この会社が何か得体のしれない流れの中にいることを感じ取りはじめたようだ。

 コタンはヴァルブロソという社員と話したことはなかったが、会議の中では幾度となく発表しているのを見た。


「来週から私、会議でスケジュール発表しなきゃならないんですよ。すごく緊張します。何かアドバイスとかありますか?」

「うーん、心を無にすることかな。どうせみんなちゃんとは聞いてないし、内容も発表用のものだってわかってるから」

「そうですかー」


 ナフェルタリに適当なアドバイスがスラスラと出てくる自分にコタンは内心驚いた。自分だって毎日ストレスを感じながら会議に出ているというのに。


 それが昨日のことだった。

 出社したコタンは回覧を見て驚いた。


「お世話になりました。 アルビオナ

 お世話になりました。 ハドラトゥス

 お世話になりました。 ベルヴェルス

 お世話になりました。 セルヴィウス

 お世話になりました。 トトラスメク

 お世話になりました。 パランティデス

 お世話になりました。 トロセロ


 …


 お世話になりました。 パブリオ」


 10数名の退職者のあいさつが並んでいた。

 退職するもの全員があいさつ文を提出するわけではないので、本当はもっと退職者がいるのかもしれない。


「ア、アムラトさん。これ、ヤバいんじゃないですか?」

「え? うーん、そうだね。でも今日はたぶん今月の退職者をまとめて載せてるだけだと思うから、今日一日のことじゃないと思うよ」


 そういう問題じゃないだろう、と思ったコタンだったが、アムラトの表情から、彼もこれは普通ではないと思っているのが分かった。

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