第4話 怨嗟の煮凝りの如き人造物に命名を

 返り血を浴びて白い肌をまだらに染めた少女は、ついさっきまで狼だったモノの真ん中に立っていた。右の手刀で串刺しにしたままにしている狼の頭を無造作に引き抜き、ぽい、と捨てた。


「ふむ。よく動いた。なかなかの出来であるな。儂満足」

(おいこら! 終わったなら体返せ!)

「そう急かすでない小僧。ほれ」



 またもや視界が暗転し、は元に戻った。

 手をグーパーしてみるとちゃんと動いた。よかった。俺の体だ。


「俺は何をされてたんだ一体」

(お主の体を借りて死霊術を行使したのよ)


 俺の中の「ヤツ」がこともなげにそういった。

 俺をこの異世界とやらに引っ張り込んできたこいつは死霊術師ネクロマンサーなる存在らしかった。ネクロマンサーというと邪聖剣というフレーズが脳裏を過ぎるが今はどうでもいいので横に置いておくとして。


「御主人様、脅威となる獣は全て排除しました。次のご命令をどうぞ」


 こちらに歩み寄ってくる全裸の少女は、どう見ても人間だが人間ではないのだった。「ヤツ」が創り上げただ。身体はさておき、この娘の意識はどうなってるんだ?


(誰のものでもない、仮初かりそめの魂よ。この山で野垂れ死にした憐れな者どもの怨嗟を煮詰めて濾して固めたものじゃからのう)


「ヤツ」は事もなげに言うが、無茶苦茶じゃないか。

 これが死霊魔術ネクロマンシーというもの、なのだろう。


「御主人様、ご命令を」


 血塗れの全裸の少女が距離を詰めてくる。目の遣り場に困るなしかし。


(命令もよいが、その前にこの娘に名前をつけてやってもらえんか。仮初かりそめであっても贋物にせものであっても魂は魂。名前をくさびにすれば肉体に定着するというものじゃから)


「そこらへんのことはよくわからんが、確かに名前が無いと呼びにくいしな。じゃあまあ、アイで」

(アイ?)


 人造の知性体。つまり人工知能AI。だからアイだ。


「お前の名前はアイだ。そして俺は真田悠馬」

「サナダユーマ様」

「ユウマでいい」

「かしこまりました、ユーマ様」


(ちなみに儂はミラベル・アンクヤードという。よろしくユーマ)


 いや、お前の名前はどうでもいい。心底、どうでもいい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る