閉ざされた街 7 山賊戦

「お、お願いです! た、助けて下さい!」

 街道の先からダレス達の前に小柄な男が一人だけ現れ、助けを求める悲鳴を発する。既に大事な移動手段である馬から降りて臨戦態勢を整えていた彼らにとっては意外な展開だ。

 男は冴えない顔した三十代前半の年頃で汚れた服を着ているが、見える範囲では武器を形態しておらず、山賊というよりは遭難した商人といった外見である。

「あなたは・・・」

「・・・何者だ? 何を怯えている?」

 咄嗟に問い掛けようとしたアルディアだが、ダレスの判断を仰ごうと彼に視線を送る。

 それに頷きながらダレスは間合いを保ちながら改めて男に問い掛ける。助けを求めているからと言って迂闊にその言葉を信じたり、近づいたりするのは悪手である。油断させるための芝居である可能性があった。

「わ、私は・・・」

「てめえ! 待ちやがれ! おっと!」

 男が説明をしようとしたところで、更にその奥から怒号を発する男達の姿が現れた。

 彼らは皆、武器を手にしているが、それらは一様にばらばらで小剣や斧、弓と統一されておらず、農具である鎌を手にしている者もいる。こちらは、まさに山賊といった具合だ。

 その数は九人で最初に現れた小柄な男を入れると合計十人、ミシャの予測通りだった。


「・・・獲物と鉢合わせしちまったか! へへへ!」

 ダレスは新たに現れた男達の出方を待つが、それを数で勝る相手に怯んでいると見たのか、男達の中で最も体格に優れ凶悪な顔した髭面の男が含み笑いを上げる。

「おい、二人も女がいるぞ、しかもすげぇ別嬪べっぴんだぜ!」

「おお、本当だ! 久しぶりに女が抱けるぜ!」

 更にアルディアとミシャの存在に気付いた山賊達が驚きと欲望に満ちた歓声を上げた。

 ミシャはともかくアルディアは一目でユラント神に仕える神官とわかる僧衣を纏っているのだが、彼らにはどうでも良いことらしい。

 もっとも、この反応によってダレスは彼らを山賊であると確定させる。わかりやすい自己紹介である。


「・・・お前達、ここから直ぐに去れ。そうすれば無駄に血を流さなくて済むからな」

 無駄だとは思いつつもダレスは山賊に警告と退去を命じる。獣欲に取りつかれた者達ではあるが、何事にも段取りがある。

「がははは! お前、何様のつもりだよ! それはこっちの台詞だ! 女達と荷物と武器を置いて行けば、命だけは見逃してやる。今回の女は上物だからな、大目に見てやるぜ!」

 先程の大男が唾を撒き散らす汚い笑い声でダレスの警告を一蹴する。武装も唯一人、長剣を腰に下げて革鎧を着こんでおり、この男が首領だと思われた。

「それは残念だ・・・」

 この捨て台詞を宣戦布告としたダレスだったが、即座に答えたのは山賊の首領ではなく最初に現れた小男だった。

「わ、私はこいつらの仲間ではありませんよ! 捕まっていて、逃げて来たのですからね!」

 そう告げると、間もなく開かれる戦端が逃れるように街道から這うように離れる。

「て、てめえ! よくそ・・・」

 再び怒気を上げる首領だったが、彼が言い終わる前にダレスは行動に移った。小男と山賊達の因縁は気になるが、脅威とならないのなら後回しである。まずは目の前の九人を片付ける必要がある。警告を聞き入れられなかった以上、躊躇する必要はない。あとは全力で戦うだけだった。


「うおお!」

 気合の雄叫びと共にダレスは腰の長剣を抜きながら、一気に間合いを詰めると無精髭を生やした首領の首を目掛けて袈裟斬りに一閃する。

「なっ?! ひいい!」

 その流れるようなダレスの素早い動きに首領は悲鳴を上げると、隣にいた手下の山賊の腕を掴み自分の前に放り出す。

「てい!」

 邪魔をされたダレスだが、長剣をそのまま身代わりとなった山賊に振るう。太刀筋は誤らずに山賊の頭と胴を二つに別けた。

 電光石火とも言えるダレスの早業によって、たちまち無残な姿となった仲間の姿に山賊達は声を奪われたように茫然となる。

「邪なる者達よ! 神の裁きに委ねてあげましょう!!」

 切って落とされた戦いの火蓋に、それまで黙っていたアルディアがメイスを振るいながら前に出て戦線を構築する。これで突出したダレスが包囲される不安はなくなった。

「お、お前ら! ビビってるんじゃねぇ! 相手はたった三人だ。早くこいつらを八つ裂きにしろ! 弓だ、射殺してしまえ!」

 アルディアの声にダレスの一撃から辛うじて逃げた首領が配下の山賊に命じる。いち早く状況を理解し対応したところから、山賊とは言え首領に収まる才覚を持っているようだ。

「へ、へい! あが・・・」

 命令を受けた弓使いが自分の得物を思い出したかのように矢を番える。だが、その瞬間、首に突き刺さった短剣のよって地面へと崩れ落ちた。弓使いを脅威と見たミシャが投擲攻撃によっていち早く沈黙させたのだ。

 その光景を横目で確認したダレスは部下を盾にして奥へと後退する首領を追うことに専念する。彼の長剣が煌めく度に山賊達が一人また一人と確実に地面へと倒れていった。

 もっとも、猛威を振るったのはダレスだけではなかった。彼がアルディアに期待したのは牽制程度だったのだが、ダレスに負けてはいられないとばかりに彼女はその怪力で山賊達に絶叫を上げさせる。

 相手が正規の戦闘訓練を受けていない山賊だとしても、その腕前は充分な手練れといえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る