脳内インディーズバンドがついに前頭葉デビュー!

ちびまるフォイ

アーティストは常に止まらない

(みんな、今日は俺たちの脳内ライブハウスに集まってくれてありがとう)


(それでは聞いてください。ブレインズで脳内ロック)


脳内バンドの演奏がはじまると集中できなくなる。

演奏を止めようと他のことを考えても脳内爆音にかき消される。


(イエーーイ! 俺たち脳内バンドは不滅だ!!)


「あーーもううるさい!! 頭の中くらい静かにしてよーー!!」


耳を塞いだところで意味はない。

むしろ静寂が脳内バンドの独壇場を作ってしまう。


こんなことを悩んでいることすら恥ずかしいが、

ふと友達に口を滑らせたところ反応はあっさりしたものだった。


「あ、脳内インディーズバンド? アタシもいるよ」


「いるの!? 私だけじゃないの!?」


「誰だって脳内バンドくらいいるでしょ」


「知らなかった……。みんな私と同じ悩みを持っているなんて」


「悩みって脳内バンドがうるさいって話?」


「うん……。みんなよく平気でいられるよね」


「アタシのバンドは音楽性の違いで脳内解散したから」


「脳内なのに音楽性の違いとかあるの!?」


「勝手に設定を盛ればいいのよ。そうすれば自分で解散したって納得するから

 その後は脳内バンド活動しなくなるよ」


「なるほど……結局は考え方なのね……」


思えば私は脳内バンド:ブレインズについて何も考えたことはなかった。

勝手に設定を付与して解散させてしまえばいい。


「ボーカルはものすごくプロ意識が強くて、ストイックで……」


私は脳内バンドについての設定をこじつけていった。

やがてメンバー間の衝突が発生するように土台を整えた。


運命の日はすぐにやってきた。


(みんな……脳内ライブへ来てくれてありがとう。今日は大事なお知らせがあります……)


(実は……)




(前頭葉でカウントダウンライブが決まりました!!!)



「いや、悪化してるし!!」


脳内にツッコミを入れたことで、バスにいる他の人達はぎょっとした。


(それじゃ新曲いくぜーー!!)


脳内バンドに深みをもたせた結果、メンバー間の衝突と音楽性の違いを乗り越え

さらに脳に刻まれる名曲が誕生してしまった。


ワンフレーズは耳に残るCMソングのように

なにをしていても無制限に脳内でリピート再生されてしまう。


前頭葉でのライブを大成功させたバンドは、

ますます勢いに乗り全脳ツアーを敢行する。


(イエーー! 側頭葉の二階席!! 見えてるよーー!!)


「あああ! もう頭の中がうるさくて集中できない!!」


脳内ツアーをしたことで私の体はますます脳内バンドに侵食されていく。

なにをしていても常に曲がかかり続けるし、止めようとするほど意識して強くなる。


もう限界だ。


私は自分の頭をトンカチでぶっ叩いて救急車で運ばれた。


良かったのか良くなかったのか、バンドともども大事には至らず

治療にあたった医者からは「いきなり自分の頭を破壊するやべーやつ」と診断された。


「なにか自殺願望でもあったんですか?」


「自殺願望はないんです。ただ脳内バンドが止められないんです。

 今、こうしている間にも脳内でミリオン曲『グリーン車は緑じゃねぇ』の

 イントロ部分がずっとかかり続けて頭おかしくなりそうなんです!!」


「そんなにキャッチーな曲なんですか……」

「はい……一度聞いたらもう……」


「それはむしろ、あなた自身がたぐいまれな才能があるということでは?」


「え?」


医者の言葉に目が点になった。


「そこまで脳内に刻まれる曲なら、実際に発表すればいいじゃないですか。

 きっとヒットしますよ。それに実際に発散すれば忘れられるかもしれませんし」


「そんな方向で考えたことなかったです……」


「閉じ込めて、聞こえないようにするからダメなんです。

 いっそ発散させてしまえばなくなるかもしれませんよ」


「そうですね!!」


私は彗星のごとく現れた女性ロックバンド「ブレインズ」としてデビューを決めた。


自分の脳内に刻まれる曲をシングルとして発表すると、

自分の中での満足感からか脳内で同じ曲がかかることはなくなった。


「ああ……よかった。これで解放される……ん?」


街の大型ディスプレイからは爆音で私のリリースした曲が再生される。

しかも耳に残るイントロ部分をリピートするように。


「うそ……そんな……!?」


脳内インディーズから実世界へのメジャーデビューしたブレインズの曲は

私の自己治療の垣根を超えて大ヒットしてしまった。


街では何度も私の曲が流れ、

通行人のイヤホンから私の曲が漏れ、

盆踊りから選手入場の曲までも私の曲に汚染される。


「もういい加減、私に曲を忘れさせてーー!!!」



※ ※ ※


『ブレインズのボーカルに直撃インタビュー!』記事より



--新曲への意気込みは?



 『これまで以上に耳に残る最高のサウンドになったかと思います』



--すでにミリオンセラーの曲を出し、

  ファンもそればかり歌うのを求めてもなお

  ライブで新しい曲を歌い続ける理由とは?



 『そうですね……』

 

 (間)

 

 

 『前の曲がかき消されて、忘れ去られればと思って歌っています!!』

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