第23話 始まりは仲間と共に

 悲鳴が日々絶え間なく響き続いた。魔法が飛び交い、技式が交わって数多の命が星に変わりゆく声が。  

 革命軍の面々は少数精鋭と言った感じで、残りは全て領域探索学院の生徒達だった。特に死者が多かったのは、当然ながら未来ある学生達だったのは、言うまでもないだろう。

 悪魔は領地拡大を目指して、北へと侵攻を続けていた。防衛ラインは常に下がり続け、終戦時には大阪府のみならず奈良県、和歌山県、三重県が支配下に置かれていた。京都府は領域探索学院が二校あり、その内第六が大阪に程近い場所に設立されていた為、支配下にはならなかった。


「どうなってる、報道じゃこっちに風が吹いてるっつってたけど、向かい風もいいとこじゃねぇか!!」


 第二領域探索学院の制服を身に纏った、大剣使いが声を荒げた。

 八坂やさかれん。初めて参加した時には既に誕生日を迎えた後だった為、十八歳になっていた。


「政府も馬鹿だな、これじゃ第二次世界大戦の時と変わらない」


 同じ制服を纏う二本の短剣使いが溜め息混じりに呟いた。

 伊澤いざわ犬寺けんじれんとは違い誕生日を迎えていなかった為、初参加時は十七歳。

 場所は三重県。彼らが参加した時には既に奈良県と三重県が支配下にあった。地下に拠点を構えることで、奴らから逃れている。


「政府の連中から圧かけられてるってことか」


 れんは近くにあったテレビを見つめて呟く。

 アナウンサーが営業スマイルで高らかに「私達は着実に奴らを追い詰めています!」と。同じテーブルに着く芸能人達も同調し、信憑性を高めさせている。


「元々押されているとは思っていたが、まさかここまでとは」


 犬寺けんじは資料片手に流し目でテレビを見る。


「一般市民の方々には申し訳なく思う。それに、学生達には戦争の参加すら強要させてしまうなんて」


 迷彩服が室内を彩る中、一人特徴的な服装の男が目を伏せ謝罪を述べる。

 当時序列七位、天道てんどう熾文しもん。この戦争に参加した中で、日本人唯一のナンバーズ。隻眼で黒い短髪、日本人離れしたガタイの良さを持つ大剣使い。市民からの信頼も厚く、二十二歳という若さでナンバーズへと登り詰めた。


「俺達は人々の幸せを守る為に学院に通ってるんです。学生か大人かなんて関係ないですよ、熾文しもんさん」


 犬寺けんじは読み終えた資料をテーブルにおいて、はにかみながら答える。

 熾文しもんは全員が揃ったことを確認し、説明を始めた。


「気を取り直して、今回の任務の概要を説明する。先遣隊の調査により、七大皇魔臨会の一人、第七の魔、道化の皇魔ナンディリムが拠点としている場所が発見された。長期間にはなるだろうが、奴を殺すことが今回の任務になる」


 熾文しもんの説明を聞き、緊張感が室内を覆う。


「この任務の指揮は俺が執る。人数は可能な限り動員し遂行する。ここの守護はれい、お前とお前の部隊に任せる」


「了解」


 れいと呼ばれた小柄な少女は小さく頷き、自信の部隊へ首でその場からはけるよう指示を出し、自信もその場を後にした。


「俺、乃村のむら徳瀬尾とくせび板間いたまとその部隊は今回の任務の基点とする」


「了解した」


 細身の男、乃村のむらはうっすらと笑みを浮かべ承諾した。


「はい、了解です」


 黒髪ロングの女、徳瀬尾とくせびは無表情のまま答えた。


「わかりました」


 板間いたまは読んでいた本を閉じて静かに返答した。


馬場ばば達は乃村のむらの部隊に、齋川さいかわ達は徳瀬尾とくせびの部隊に、水上みかみ達は板間いたまの部隊に入れ。決行は明日あすの午前五時からだ。今日は各々好きに過ごせ」


「「了解ッ!!」」


 そうして、彼ら学生には寝れぬ夜になった。

 空は闇に包まれ、まばらに見える星々だけが光を地上にもたらしていた。


「……こっちもそこそこボロボロだな。見渡す限り瓦礫の山か」


 犬寺けんじはその辺に転がっていた石ころを拾って、辺りを見回した。

 家は潰れ、大地は抉られ、ビルは倒壊した荒れた土地。至る所に転がる、ボロボロの衣類、埃を被りひび割れたお皿。人々の生活が壊された証がそこかしこに放置されていた。

 溜め息と共にその場に腰を下ろし、夜空を見上げる。


 ───世間に本当の情報を流す方法は何かないのか?なんとかしなきゃな……

 

 心の中で毒を吐き、視線を地面に落とした。

 冷たい風が頬を撫で、鼻先まで伸びきった髪がなびく。腐乱した臭気が鼻を襲い、思わず手で覆いその先を睨む。

 その一ヶ所に原形がわからないほどに無惨な姿となった人の死体が山積みにされていた。魔物との抗争に巻き込まれた一般市民、魔物に対抗しようと戦い、この地に拠点を作った革命軍の戦士達。そして、未来ある領域探査学院の生徒達。

 墓にも入れずここで朽ちていく亡骸に黙祷を捧げ、膝に手を当てゆっくりと立ち上がった。


「ここにいたのか、けんちゃん」


「ん?なんだ起きたのか、れん


 れんが豪快に欠伸をしながら、犬寺けんじの隣に立った。

 少し寝癖をつけて眠たげなまなこ犬寺けんじを見ながら笑ってみせた。少し眼を見開いたが、すぐに直りフッと微笑を浮かべて見せた。


「おいおいしんみりしてんじゃあねぇぞ?」


「僕らのライバルともあろう二人が聞いて呆れるね」


 れんの後ろから、高圧的な低い声とそれとは対照的な明るく可愛らしい声で呆れを投げつけた。


「でたな白髪頭と僕っ子低身長!!」


 れんが後ろを振り向き、ガハッと歯を見せ笑った。


「誰が僕っ子低身長か!!」


「てめぇまだそう呼ぶか!白髪じゃない銀髪だ!!」


亥瑠美いるみにイシュタル。お前らまで起きたのか」


 白髪頭もとい、亥瑠美いるみ鯨華げいかは東京校の第一に通う、れんと同じ大剣使い。

 れんに比べて細身で、ツーブロックが入ったアップバンク。エメラルドグリーン色の三白眼の鋭い眼光。口調も相まって、周りに与える印象は良いとは言えないだろう。

 僕っ子低身長もとい、マリア・デ・インフォルド・イシュタルも彼と同じく東京校第一の生徒で、鯨華げいかのバディ。

 低身長は長身のれんから見てというよりは、誰から見ても低身長の153cm。赤毛のショートヘアーに特徴的な青いヘアピン。鯨華げいかと同じエメラルドグリーン色のくっきりとした眼。一人称が「僕」と特徴的で、第一にはファンクラブもあるくらいだ。


「僕らは場所は違えど、会った時から切磋琢磨してきた。この四人なら怖い者なしなんだろう?」


 その問いかけに肯定を示すように、皆が悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。

 れんに振り回され、うんざりだと犬寺けんじは言うが、その実嫌という訳ではなかった。むしろ、そんな喧騒な毎日に身を置くことが何処か心地よく、楽しくもあった。だからこそ、この戦争は絶対に守り、生き残らなくてはならない。ただならぬ覚悟を持ちこの場に立っている。


 だが、早かった。若すぎた。自分達が何処に立っているのか、これから何処に向かうのか。


 理解していなかった。ただの魔物や領界種を殺すのとでは訳が違うことを。


 気が付けなかった。目の前にあった、絶望に───。

 

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