第四話『夢の先に在るもの』②

×  ×  ×


 照りつける太陽に真琴は目を細めた。


──!! ?? ここは何処!?


眠りについた筈なのに……と真琴の思考は混乱した。

 口中に広がる血と砂の味に慌てて辺りを見回す。

 そこは熱砂が広がる広大な砂漠だった。

 大破した戦車が数台、砲身を傾けたままで放棄されている。

 気付くといつの間にか寝間着ではなく軍服を着ていた。


「イイイィィィハァァァ!! !! !!」


 大音声の奇声が聞こえたかと思うと、砂丘に軍旗が翻り、騎兵の大隊が現れた。

 騎兵たちは楔形文字の刺青が施された上半身を露わにして、それぞれ大剣や槍を持っている。

 馬を駆る騎兵たちはあっという間に真琴との距離を詰めた。


──や、やめて!! !! !!


 思う間もなく、近付いてきた騎兵は真琴へと向かって大剣を振り下ろした。

 頭部に走る焼けつく様な激痛で真琴は気を失った。


──うぅ……。


 激痛で気を失った真琴が次に目覚めたのは、湿気を含んだ重い空気の場所だった。

 そこは周囲に熱帯植物が生い茂る村の広場だった。

 軍服は消え去っており、真琴は木で出来た十字架に裸で磔にされている。


「これより、神への供物を捧げ、その慈悲を乞う」


 しわがれた声に目を遣ると、顔面がピアスだらけの老婆がこちらを見ていた。老婆は顔中を白く塗りたくり、辺境の呪術師を思わせる出で立ちをしている。

 老婆の声に二人の戦士が磔にされている真琴の両脇に並び立った。黒い肌の戦士たちは槍を構え、その穂先を真琴の両脇へと向けた。


──そんな!! ?? どうして???? やめて!! !!


 真琴は叫び懇願したが、何故か言葉が声にならない。

 意識だけはハッキリしているが、身体の自由は奪われたままだ。

 「捧げよ!!」という老婆の声と共に槍は真琴の皮膚を破り、肉を貫いて心臓へと届いた。

 想像を絶する激痛が真琴を襲い、真琴は再び気絶した。


──誰か……助けて……。


 真琴の願いも虚しく、真琴は再び虚実の狭間で意識を取り戻した。

 そこは何処か見覚えの有る金盞花が咲き乱れる空中庭園だった。

 近くでは高層ビル特有の赤色灯が点滅している。

 巨大な月が見下ろす中、真琴はフェンスへと向かって歩を進めていた。


──やめて、やめて、やめて!! !! !!


 真琴は訪れるであろう未来を想像して再び叫んだ。

 しかし、例によって身体の自由は利かない。

 まるで精神の檻から外界を見ている感覚だ。

 外界での出来事を五感で感じる事が出来ても、身体の自由は全く利かない。

 やがて……。

 真琴の意識に反して、その手はフェンスに手をかける。

 身体は真琴の意思など関係なく、その身を夜空へと舞わせた。


 夢とは思えない苦痛と『死』。

 早く目覚めたいと願っても新たに目覚める場所は新しい『死』の始まりだった。

 繰り返される『死』に真琴の心は摩耗し、崩壊を迎えようとしていた。

 何度目の『死』を迎えただろうか……。

 雰囲気の変化に真琴は少しだけ自我を取り戻した。

 朦朧とした意識で辺りを見回すと、そこはクラブのフロアだった。

 半壊し、無数の骸が転がるフロアで真琴はダガーを手にしていた。

 誰かと戦っているのだろうか……。


 カツカツ……。


 小さな足音と共に目の前に女の子が現れた。

 その姿に真琴は瞠目した。それは対峙したのがアリオだったからだ。

 アリオは制服ではなく真紅のドレスを身に纏い、その手に銃を握っている。


──アリオ!!??


 真琴は仄かな希望を見出した思いでアリオを見つめた。


──アリオ!! 気付いて!! わたしよ!! !!


 必死に呼びかけてみても、その声がアリオに届く事は無かった。

 それどころか、アリオは冷めた目でこちらへ銃口を向けている。

 やがて、その銃口の先に幾何学文様の魔法陣が現れた。

 アリオが引き金を引くと、強い光を放つ閃光が真琴の胸を貫く。

 夢という非現実の中で最後に『死』をもたらしたのはアリオだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る