第11話 兄と親友の婚約パーティー(1)


 暑い季節が過ぎ去り、頬に当たる風に涼しさを感じるようになってきた本日……きらびやかに飾りたてられた会場には多くの人が集まっています。


 その中心にいるのは……ゆるくウェーブのかかった金髪に大きなグレーの瞳、そして小さく守ってあげたくなるような雰囲気を持つ女性と金髪に碧の瞳をした騎士服の男性です。

 彼女はリーリア・サルマンディ。サルマンディ伯爵家の3女です。リーリアのそばに立っているのはわたくしのお兄様であるエバン・ロベールです。


 リーリアは幼い頃からの親友です。領地を行き来し、お手紙をやりとりし交流を深め……王立学院でも色々と助けていただきました。

 学院在学中は『制御の魔道具』を使用し、なんとか卒業することができましたが……やはりリーリアやエバン兄様の協力なしでは難しかったでしょう。


 通常ならば魔道具は数年は持ち、長く使えるように作られているそうですが、わたくしが使用するとほとんどがひと月ほどで耐えられずに壊れてしまう為、今日のように特別な時に身につけるようにしています。

 まぁ、かなり高価だという理由もありますが……学院時代にかなりの数の魔道具を壊してしまったので卒業後はどうしても出なければいけないお茶会や舞踏会など人目がある場でのみ使用しています。


 なぜそんな話をしているかといえば……本日はリーリアとエバン兄様の婚約パーティーだからです。


 サルマンディ伯爵家は男子がおらず2人のお姉様が嫁いだ後はリーリアが婿をとるということが決まっていました。

 そのため、貴族の次男、三男などからの縁談も多かったそうですがエバン兄様の暗躍もありリーリアとの婚約が無事、決定したのです。

 幸い、エバン兄様は次男でしたのでさして問題も起こらず婿に入る形になりました。

 エバン兄様はリーリアと一緒になれるならなんでも構わないとの事です。

 若干、リーリアに執着強めの兄様ですがきっとふたりは幸せになることでしょう……羨ましいです。

 リーリアが義理の姉になるのは少し不思議な気分ですが、大好きな2人が幸せそうでわたくしも嬉しく思います。



 パーティーの主役であるリーリアはエバン兄様の瞳の色のドレスに身を包み、同じ色の宝石がはめ込まれた『エタンセルマン』のアクセサリーをつけています。こちらはわたくしからの婚約のお祝いとして新シリーズの〈クチナシ〉をひと揃い贈らせていただきました。

 エバン兄様はどうしても自分の色を身につけてほしいらしく、リーリアは毎回同じ色のドレスを着ています。

 もちろんデザインや素材は違いますが、今回は仕方ないにしても……せめて結婚式のドレスはリーリアの自由に選ばせてほしいと内心では思ってしまいます。まあ、余計なお世話かもしれませんが、リーリアから協力を依頼された場合は全力で協力したいと思います。


 主役の周りを囲む小さな子供たちはリーリアが精霊様みたいだと見とれていました。その中にエバン兄様もいましたが、いつものことなので気にしてはなりません。

 そんなエバン兄様も騎士の制服を身にまとい、女性から熱い視線が注がれています。リーリアが絡まなければ本当にカッコいいんですのよ……リーリアが絡んでしまうと台無しですけど。


 わたくしはいつも通りフリルやリボンの装飾がほとんどついていないシンプルなライラックのドレスを着ています。ええ、引っかかって破る危険をできる限り排除した結果です。その分、ストマッカーやスカート部分にに刺繍のたくさん入ったドレスですね。

 普段はあまり締め付けない服装のため(お仕着せですね……)コルセットに慣れません。

 コルセットで締め付けられ、胸元には詰め物までされてようやく膨らみがわかる程度……かつて、密かに同盟認定したはずのリーリアはいつのまにそんな成長したのでしょうか。秘訣があるのなら教えてほしいです……お母様もエミリアお姉様もスタイル抜群ですのに……

 


 髪型だけはデボラたちが頑張ってくれたのでなかなかではないでしょうか。

 胸元は乏しいですが、その分ネックレスの魔道具が存在感を発揮しています……というのも今回はじめての試みとしてわたくしの作った新シリーズの〈マーガレット〉のアクセサリーを魔道具に加工していただいたのです。

 ええ、販路拡大を狙ってお父様が魔道具職人に注文されたそうですわ。

 それに、わたくしが今まで使ってきた数多ある魔道具はほとんどが同じようなシンプルなデザインなのです……見えないところに使用するなら構いませんが、社交界には付けていきにくいと常々思っていたのはわたくしだけではなかったようです。

 この試みが成功すれば、オシャレも楽しめる魔道具になることでしょうーー



 曇りひとつない晴天のなか開かれた婚約パーティーにはエバン兄様のご友人も多く、従姉妹のサーシャやその兄のアランも参加しています。

 サーシャはリボンがたくさんついたピンクのふわふわしたドレスを身にまとい頬を染め、同年代の男子の視線を一身に集めています……きっとアランは叔父様から虫よけを拝命したのでしょう。

 アランは未だ独身で婚約も決まっていないのですが、こちらもこっそりサーシャが虫よけしていることには気づいていないようですね。

 どうやら、サーシャはお義姉さんになってほしい方がいるようで家格もちょうどよく、その方も満更ではないらしいのです……アランさえその気になればすぐに婚約できるようなのですが、鈍感なのかまったく気づいていないそうです。叔父様からすれば外堀を埋めることぐらしないとまだまだなんだそう……


 その方は本日の婚約パーティーには招待されていないそうなので、サーシャはアランを令嬢の毒牙から守るつもりなのです。

 なぜそんなことを知っているかといえば、サーシャからお手紙で協力と、もしアランがその方と上手くいった場合にアクセサリーの作成をお願いされているからです。


 外堀を埋められていつのまにか結婚しているアランが目に浮かぶようですわ……叔父様はその方が外堀を埋めようとする心意気が気に入ったのでしょうか。



 ◇ ◇ ◇



 会場のそこかしこでは相手の決まっていないご令嬢が目当ての男性にこぞってアピールしています。扇子で顔を隠しているのですが、瞳がギラギラしていて少し怖いです。何人かご令嬢がアタックしているようですが、成功率は低そうです。なるべく離れておきましょう……

 ……わたくしですか? 大人しく壁の花に徹していますわ。


 そんな中、ひと通り挨拶を終え人混みから抜け出したリーリアとエバン兄様がこちらへやってきます。


 「エバン兄様、リーリア本日はおめでとうございます」

 「おう、ありがとうなイレーナ」 

 「ありがとう、イレーナ。アクセサリーもとっても気に入りましたわ」

 「リーリアが気に入ってくださったならよかったですわ」

 「リーリアは何を身につけても似合うからな! ……そういえば、今日はイレーナの魔道具作ってるやつも来てるぞ」

 「まぁ、是非お会いしたいです」


 どんな方でしょうか……

 普段わたくしが使用している魔道具は、上級魔道具職人の方しか作ることができないと聞いたことがございます。詳しい内容はよく覚えていないのですけれど……

 それに、本日のネックレスはお父様が無理を言って作っていただいたそうなのでお礼もしたいですわ。


 「そうか?じゃあちょっと連れ……いや、リーリアを1人にするのは……いや、そもそも俺とリーリアの婚約パーティーなのにリーリアから離れるなんてっ!」

 「エバン様、落ち着いてください」

 「だがっ」

 「イレーナに紹介するのでしょう?」

 「リーリア、わたくしは別の機会で構いません。エバン兄様からお礼を伝えおいてください」

 「エバン様……お願いしますわ」


 エバン兄様はしばらく頭を抱えた後


 「わかった!すぐに戻って来るから!イレーナ!リーリアを頼むぞ!」

 「ええ、わかりました」

 「エバン様、いってらっしゃい」


 エバン兄様はその方を見つけ出し凄いスピードで走っていかれました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る