第4話

 麓の村までは、大人でも半日はかかる。子どもにとっては、ちょっとした旅だと言える。ピートは、明るいうちに村にたどり着きたい考えて、日の出と共に祖父の家を出た。

 ピートは、祖父に一緒に行こうと誘った。一人で歩いていくのは、さすがに心細い。途中、森を通る。森と言っても、黒陽の影響で、まばらに木が生えているだけだ。それを以前の習慣で人々は森と呼んでいた。もしくは、いつかは再び森という名にふさわしい状態に戻ってほしいという希望を込めていたのかもしれない。しかし、黒い太陽はその光によって、枯れ木を増やしていくだけであった。

 森には、狼の群れが棲んでいた。彼らは、森の生態系の頂点に位置するものであった。草が枯れてしまったために、それを餌としていた草食動物の数も減っていた。そして、彼らを捕食する狼たちも、その数は減り、残ったものも常に空腹であった。

 そのような危険な場所を通るため、ピートは祖父に村まで行こうと言ったのであった。祖父は牧場で作ったチーズを、時折村に売りに行っていた。そして、帰ってくるときには日用品を持って帰ってくるのであった。ピートは、祖父に一緒に村に行きたいとせがんだことが何度かあった。母と暮らしている頃は、ピートは町に住んでいた。祖父がチーズを売りにいく村は、住んでいた町とは当然異なるが、賑わいがあるはずだ。牧場での暮らしは、ピートにとって特に不満があるものではなかったが、たまには人々の喧騒の中に身を委ねてみたい。そんなことを感じた。しかし、祖父は頑に、一緒にピートが来ることを拒んだ。

 だから、ピートが村に行って情報を得たいと話したときに、すんなりと許可をしたのは不思議であった。ただ、祖父はどうしても一緒に行くことはできないと言った。もしかしたら、狼が出るような森を抜けるのを知ったら、一人で行くのは無理だと判断し、村への旅を諦めると考えていたのかもしれない。しかし、ピートは、村に行く機会をみすみす手放そうという気はなかった。特に今回は、世界について知るための旅だ。この世界を滅ぼうそうとしているのは本当に魔術師なのか、なぜそんなことをしようとしているのか、知りたいことは山ほどあった。そして、ピートは自分がそれらの情報を得ることで、この滅びかけている世界を救えるのではないかと、少年らしい都合がいい夢想をしていた。

 ピートの旅路は、順調であった。興奮のためであろうか、疲れを感じなかった。体が軽かった。

 ピートの身体的能力は同年代の少年と比べた場合、優れていた。それは、彼が住んでいた祖父の家は山の中腹にあり、山羊を連れて長時間歩くことが多かったためであろう。

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