10話 元魔王、最凶監獄で大暴れ


大魔王城地下最凶監獄。

ここには、大魔王エンリルすら手を焼く、最凶最悪な魔物や魔族が、多数収監されている。

その入り口の扉は、いかなる攻撃によっても破壊不能な結界により守られており……


―――ドゴォォォン!


最凶監獄の入り口の扉が、元魔王ラバスのデコピン攻撃で吹き飛んだ。

濛々と舞い上がる粉塵。

その霧が晴れると、そこには、四人の男女が立っていた。

元魔王ラバス、パリカー、ニムエ、ローザ。

彼等は、ローザのレベルカンストを目指して、この地にやってきていた。


「……うそ?」


パリカーが、ポカンと口を開けたまま固まっていた。


「いかがいたした、紅蓮のパリカーよ」

「いや、だって、今、ドゴーンって……」

「フッ……申したであろう? エセ魔王ごときが、施した結界、デコピン一発で破壊出来ねば、真の魔王は名乗れぬ」


ニムエが、何かを頬張りながら感心した。


はふははさすがははほうははまおうさま へふへですね

「お前は……いつまで食っているのだ?」

はっへだってはははへっへ腹が減ってはははへっへ腹が減って


ローザが、不安そうな声を上げた。


「まおうさま、ここ、尋常でない位、禍々しい気配に満ちてますよ。私、生きて帰れるでしょうか?」

「心配いたすな。我に【リセット】ある限り、そなたに決して、死は訪れぬ」


元魔王ラバスは、配下達と、監獄内へと足を踏み入れた。


よっしゃ、まずは、小手調べや。

手前の扉から、順番に開けて行くか……


元魔王ラバスは、進行方向右手の扉に手を掛けた。


ん? 扉にも結界張っとんのか。

厳重なこって……


元魔王ラバスは、扉の結界をなんなく解除すると、無造作に開け放った。

扉の先は、天井の高い、巨大なホールになっていた。

壁には、血の様に紅い巨大なドラゴンが貼り付けられていた。


【看破】スキル発動!


名前:ヨルムンガンド

種族:魔竜族

経験値:SSS

レベル:9,999(MAX)

HP:4,532,800,000

MP:389,250,000

スキル:色々

……


こいつ、めっちゃ、すごいやん!

わしの配下にならへんかな?


元魔王ラバスは、ヨルムンガンドに語り掛けた。


「真紅の魔竜よ、そなた我が配下にならぬか? 我に従うなら、その戒め、解いてやろう」


ヨルムンガンドは、燃えるような紅い瞳を元魔王ラバスに向けてきた。


「ニオウ、ニオウゾ……ニンゲン」

「臭う?」


元魔王ラバスは、若干不安になって、自身の体臭を確認してみた。


別に、ヘンな臭いはせえへんけどな。

毎日ちゃんと風呂入っとるし。

ハッ!?

もしや、加齢臭ってやつか!?


動揺する元魔王ラバスの様子に気付いた優しい仲間達が、慰めの言葉を掛けてきた。


「大丈夫です! まおうさまは、臭くなんか無いですよ?」

「そうよぉ。まおうさまは、い・い・に・お・い(クンカクンカ)」

ほーはひゃんローラちゃんほへんほうお弁当ははってはい余ってない?」


ヨルムンガンドは、冷めた視線のまま、言葉を続けた。


「オマエカラ、メガミノ ニオイガスルゾ……オマエガ アタラシイ ユウシャダナ?」


元魔王ラバスの瞳から、理性の光が消えた。


「誰が、勇者や!」



チュドーン



ヨルムンガンドが、貼り付けられていた壁は、魔竜ごと跡形も無く吹き飛んだ。


ローザが、おずおずと声を掛けてきた。


「ま、まおう……さま?」


し、しもた!

わしが、吹き飛ばして、どないすんねん。

配下にも出来へんかったし、悪魔大神官ローザの経験値の肥やしにも出来へんかったやん……

まあええ、見た所、ここ結構、広そうや。

他にも、凶悪な魔物、たくさんおるやろ。


「ゴホン、次に行くぞ」



元魔王ラバスは、そのまま反対側の扉を開けた。

扉の向こうも、先程と同じく、巨大なホールになっていた。

ただし、そのホール全体が、膝上位の水位で浸水していた。

部屋の中央に、巨大なワニとも鯨ともつかない海竜が、床に張り付けられていた。


【看破】スキル発動!


名前:レヴィアタン

種族:海竜族

経験値:SSS

レベル:9,999(MAX)

HP:2,182,900,000

MP:2,226,390,000

スキル:色々

……


こいつも、めちゃ凄いやん。

どないしよ?

まずは、説得試みて、あかんかったら、悪魔大神官ローザ肥やし経験値にしよ。


「海の悪魔よ、我に従え。さすれば、その戒め、解いてやる」


レヴィアタンは、紫色の濁った瞳を向けてきた。


「ワレヲ シタガエントホッスルカ ユウシャヨ」


元魔王ラバスの瞳から、理性の光が消えた。


「誰が、勇者や!」



チュドーン



先程まで、レヴィアタンが、存在したはずの場所に開いた大穴に向かって、水が、勢いよく流れ込んでいく。


ローザが、おずおずと声を掛けてきた。


「ま、まおう……さま?」


ああああああ!?

あかんやん!

……

落ち着け。

同じ失敗繰り返してどないすんねん。

次は、ちょっと言い方工夫してみよ。


「ゴホン、次に行くぞ」



元魔王ラバスは、廊下に戻ると、次の扉を開いた。


そこも先程までと同じく、天井の高い巨大なホールになっていた。

そして、ゾウともカバともつかない巨獣が縛り付けられていた。


【看破】スキル発動!


名前:ベヒモス

種族:巨獣族

経験値:SSS

レベル:9,999(MAX)

HP:9,832,400,000

MP:130,000

スキル:色々

……


さすが、最凶監獄ゆうだけあんな。

めちゃ凄いのが、ごろごろおるやん。

さて……


「我は、勇者にあらず。魔王ラバス! 偽りの魔王エンリルを倒さんと欲する者じゃ。そなた、勇者では無く魔王たる我に従うなら、その戒めを解いてやろう。」


どや?

これだけ勇者やないって連発しといたら、こいつも余計な返し、してこんやろ。


元網ラバスは、ベヒモスに、期待の籠った視線を向け、返事を待った。


「……」

「……」

「……」


沈黙に耐えかねたのか、巨獣が咆哮を上げた。


―――ブウォォォォォ!


パリカーが、言葉を挟んだ。


「まおうさま……」

「なんじゃ、紅蓮のパリカーよ?」


パリカーが、言いにくそうに言葉を続けた。


「そのコ、巨獣族なんで、会話無理ですよぉ?」

「……!?」


な、なんやて~~!?

そういう事は、はよ言わんか!

するとなんや、わしは、動物さんに真剣に話しかける、イタイおぢさんみたいな事、やっとったっちゅう事か?

まあ、一旦、落ち着こ。

……

しゃあない、こいつは、悪魔大神官ローザ肥やし経験値決定やな。


元魔王ラバスは、高々と右腕を掲げた。



―――【瀕死の裁きモリトゥーロ



ベヒモスの周囲に、複雑な魔法陣が重なって出現した。

次の瞬間、閃光が迸った!


―――ギウォォォォォ!?


ベヒモスが、苦悶の咆哮と共に、蹲った。


「髑髏のローザよ、今じゃ!」

「は、はい!」


出番が来る事を予期してなかったらしいローザは、慌てて杖を握り直した。

そして、瀕死の巨獣へと駆け寄った。


てぃ!


ローザの攻撃

ローザは、杖で殴り掛かった!

ベヒモスに、0ポイントのダメージを与えた!


「……」

「も、もう一回!」


てぃ!


ローザの攻撃

ローザは、杖で殴り掛かった!

ベヒモスに、0ポイントのダメージを与えた!


う~む。

やっぱり、紅蓮のパリカーが言うてた通り、あんな貧相な杖で殴っても、ここの魔物は、倒せんか。

しゃあない……


元魔王ラバスは、何かを詠唱した。

唐突に、ローザの杖が発光した。


「えっ?」


―――キシャァァァ!


なんと、ローザの杖の先端についていた、低レベルの魔力石が、紅蓮の炎へと姿を変えていた。

炎の中には、悪魔を思わせる、凶悪な顔が浮かび上がっていた。


「あわわ……」


怯えるローザに、元魔王ラバスが、声を掛けた。


「髑髏のローザよ、そなたの杖に、イフリートを宿らせた。さあ、今一度、その杖を振るうが良い」

「は、はい、まおうさま!」


ローザは、杖を握り直すと、意を決して、ベヒモスに立ち向かった。


てぃ!


ローザの攻撃

ローザは、杖で殴り掛かった!

ベヒモスに、10,250ポイントのダメージを与えた!

ベヒモスを倒した!

経験値、152,343,800ポイント獲得!

ローザは、レベルが上がった!

…………

……


ローザが、飛び跳ねんばかりに喜びながら、元魔王ラバスの元に駆け戻って来た。


「やりました、まおうさま! レベル200、HP1,800、MP4,300になりました!」


微妙や……

人間としては、エエ数値なんやろか?

比較対象おらんから、何とも言えん。

せやけど、最前線で戦わすには、多分、完全に物足りんやろ……


元魔王ラバスが、首を捻る中、背後に何者かが現れた。


「何やら監獄が騒がしいと思ったら、侵入者か」


その声に振り返った元魔王ラバスの視線の先に、一人の魔人が立っていた。


「我は、大魔王エンリル様の四天王の一人、大悪魔カモン」


パリカーが、表情を引きつらせながら、元魔王ラバスに囁いた。


「あいつは、四天王序列5位。全ての魔法攻撃を反射する【リフレクション】のスキルを持ってます」

「ほう……魔法を反射するのか。なかなか面白い奴よ」


二人の会話を聞いていたニムエの目が光った。


―――ゴッ!


刹那、空気が震えた。


ニムエの人差し指の風圧をまともに浴びた大悪魔カモンは、両足首から下だけを残し、この世界から退場した。


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無理矢理勇者として転生させられた元魔王、異世界で無双する 風の吹くまま気の向くまま @takashi21

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