ペンギン抗争

 ペタペタ、トテトテ、ペンペン。

「こっちの装飾の方が綺麗だろうが! なぁ?」

 ペタペタ、トテトテ、ペンペン。

「そっちは装飾がうるさ過ぎるんだっつーの! うちのシンプルな美しさの方が最高だろうが! なぁ?」

 ピーピー、ギャーギャー。

 これがペンギン抗争の理由の全てである。


 やっと話を聞いてもらえたのは、彼らがお昼ごはんの時間になったからだった。

「こんな所でお昼ごはんって、何かあるの?」

 私は一本角のリーダーらしいペンギンに聞く。

 すると捻じれ角のリーダーらしいペンギンが「魚が美味いんだ」と言って、浅いはずの水の中に消えて行った。

「水の逃げ場がなかったんでな、近くの川まで掘ったんだよ」

 そう言って一本角のリーダーは、リスくんの欠陥建築から流れ落ちる滝を指さす。

 それから捻じれ角の潜って行った先を見てみると、トンネルのような物が見えた。


「はい、道開けて!」

 威勢のいいその声に慌てて退くと、パチャンパチャンと次々に捻じれ角ペンギンたちが水中のトンネルに入って行く。

 今日はあいつらの当番なんだ、と一本角のリーダーは言う。


 話を聞いてみると、この神殿は前の惑星でペンギンたちの先代が作った物らしい。

 私たちと同じで「シェルターに入れ」と声を聞いたもののこの神殿しか思いつかず、気が付くとここにいたと言う話だ。

 彼らは石の加工を専門とする集団で、いつも意見が二つに割れてしまって言い争いになるのだそうだ。

 他の種族も私たちと同じで、シェルター代わりにした元の惑星の何かと一緒にこの惑星に来ているのだろう。


 私たちはこの惑星の状況を説明した。

 それを聞いて一本角のリーダーが驚いている所に、捻じれ角たちが帰って来る。

「なぁ、おい。魔法が使えるんだってよ!」

「何だって? それって金槌とか出せるのか?」

「出せるだろう。良かったよな。道具まで持って来られなかったもんなぁ」

 ピチピチと跳ね回る魚たちを飲み込みながら、ペンギンたちは嬉しそうに話す。


「あの、そうじゃなくて……ここはもう別の惑星で」

「あぁ、そうだろうな。こんな魚、見た事ねぇもんな」

 ペンギンたちからは呑気な返事しか返って来ない。それを見ながら腹を抱えて笑うリスくん。

 そこで部長がペンギンたちに聞いた。

「神様には会いましたか?」


「神様? なんか半分寝てる白い爺さんなら会ったがな」

 それ! と、私たちは声を揃えて叫んだ。

「何か聞いてない?」

 私がそう聞くと、捻じれ角のリーダーが聞いている、と答える。

「変な力が流れてるんで、進化したらごめんとか言ってたぞ」

「進化⁉」

「おぅ。だって俺たち、こんな角なかったもんな?」

「あぁ。無かった、無かった。代わりに翼があったよな?」

「おぅ。あった、あった。飛べたよな」

 そして角は、対立していたペンギンたちで綺麗に形が分かれたらしい。

 二人のリーダーの話に、他のペンギンたちも頷く。物づくり以外ではペンギンたちの仲は悪くないらしい。

「業務を途中で放り出すとは、困った神々ですね」

 そう言った半田部長が、無理難題を跳ね返す時と同じ顔で笑っている。静かに怒っているのかもしれない。


「という訳なので、私たちもこの地下迷宮の入り口辺りに住もうと思うんだけど、いいかな?」

 どうにかペンギン抗争をしている場合ではない、と分かってくれたペンギンたちに私は聞いた。

「おぅ。気にすんなよ。仲良くやろうぜ。な?」


 快く受け入れてくれたペンギンたちにお礼を言うと、捻じれ角のリーダーが魚を片手に魚を持ったまま聞く。

「てことはこの地下迷宮はその兄ちゃんのなんだな?」

 リスくんは照れながら頷く。

「俺のって言うか、俺が作っただけで誰のでもないっすよ」

「じゃあ、うちの奴らで作り直していいか?」

「もちろんっすよ。楽しみにしてます!」

 リスくんがそう答えると、食事を終えたペンギンたちがバッと立ち上がる。

「俺たち一本角がシンプルで荘厳な迷宮にしてやるんだ! 手を出すんじゃねぇぞ!」

 ペタペタ、トテトテ、ペンペン。

「何だと⁉ 俺たちが細やかで華やかな迷宮にしてやるんだっつーの!」

 ペンギン抗争は終わらない。


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