魔力と不安

 地下迷宮には大小さまざまな土精霊と水精霊がいた。

 それは硝子細工のようなイルカと、リンリンと鳴く飴色の犬だ。

 様々な音が聞こえる地下迷宮は、彼らの発する光で煌めいている。それは、ここにも魔力が溜まっているという事だろう。


「なるほどね。生み出した生き物が自生し始めてるのか」

 ポンタはそう言ってから、やっぱりねと呟く。

「やっぱりってどういう事?」

「僕も気になる事があるって言ったでしょ? それ、魔力の事なんだ」

「魔力がどうかしたの? まずい事?」

 私は慌てて聞く。

「まずいかどうかは分からないけれど、このキノコやアイスキャンディーと同じだよ。なんて言うかな……精霊は昨日の夜たくさん生まれたよね? でも、あの後も精霊たちは増え続けているんだ。どうも魔力の多い所に生まれているらしい」


 ポンタは昨日の夜、私たちが眠った後に調べに出かけたのだと言う。ポンタは他の精霊たちと同じように空を泳ぐ。

そうしてほとんど光だけの姿から、初めて生み出した精霊に近いくらい大きな精霊まで、様々な精霊が生まれる所を見たらしい。

「つまり精霊たちも自生したという事。それって、精霊たちがいる場所は魔力が多いという事だよね」

「私も、そう思うけど」

 だから何だという事が分からなくて曖昧に返事を返すと、ポンタは言う。


「神々がこの惑星を作った時に流れ込んだ力なら、作られて間もない空間に、それも扉さえ開けてなかったのにこれだけの精霊がいるのは可笑しいんじゃない?」

「それじゃあ、魔力がどこからか流れ込んで来てるって事?」

「もしくは魔力も自生し始めてるって事かもね。僕がこの惑星の事を隅々まで知るにはまだ時間がかかるから、近くはこうして自分の足で調べようと思って」

 さわやかに笑うポンタとは裏腹に、私は溜め息を吐く。

 どこかで、神々の力は使い切ってしまえば無くなるだろうと思っていた。もちろん魔法が使えない事は不便ではあるけれど、誰でも魔法が使える不安よりはマシだ。

 けれど魔力が自生してしまえば、もう無くなる事はない。ここは魔法の惑星になる。

 私たちの足元でキノコがケタケタと笑う。


 私たちは目的を魔力の調査に変更して、地下迷宮を進む。

「まぁ、部屋にするならあの広い踊り場がいいっすよね」

 楽しそうな声でリスくんが言う。

「確かに、扉さえつければすぐにでも部屋になりそうでしたね」

 部長も乗り気だ。私も、迷宮の底に住むよりは踊り場の方が良いとは思う。

「でも、今はそんな事より魔力の調査ですよ」

 私は二人に訴えた。

 それもそうですねと、それでも呑気な声で部長が答える。


 迷宮の道は広く、真っ直ぐ進んではカクっと曲がる。所どころに部屋らしい場所はあるけれど、遺跡とか神殿のような雰囲気で何もない所ばかりだ。

 まさにリスくんの言っていたゲームに出て来そうな雰囲気だ。

 そう思って進んでいると、こんこんと泉の湧く部屋を見つけた。底の岩の模様まで見える綺麗な水だ。その水が、奥の壁の割れ目から下に落ちていっている。

「うわぁ、俺の欠陥建築やばいっすね」

「けれど、この下に空間があるという事ですよね?」

 半田部長がウキウキとした表情で言った。


 そういう訳で、私たち四人は下へ通じる道を探し始める。

 どれだけ歩いても見つからないうちに、ポンタが地下迷宮の地形を把握した。けれど、下に降りる道はないというのだ。

「下に空間がないってこと?」

 私が聞くと、ポンタは首を横に振る。

「いや。下にあの冷凍室八つ分くらいの空間はあるよ。ただ、そこはそこだけなんだ。行くなら新しく道を作らないといけないよ」

 私たちと一緒に来た冷凍室は、トラックのコンテナ二つ分くらいの大きさだ。それを八つ分と言うと、かなり広い空間が広がっている事になる。


 気になって仕方がない私たちは、泉のある部屋の隣からリスくんの魔法で階段を降ろす。

 土竜になった気分だ。土を掘りながら足元に階段が広がっていく。そして歩いたそばから階段や壁は朱色の光を放ち、石で舗装されていく。

「リスくんて器用だね」

「そうっすか? 適正だけだと思いますけどね」


 そして土の壁がバラバラと崩れた時、視界が紫の光に包まれた。耳には白熱しているようなたくさんの声と、流れ落ちる水の音が届く。

 光の中にあったのは、二つの紫の神殿。アメジストと水晶でできたような宝石の神殿だ。

流れ落ちる水は滝となりその空間に注がれるけれど、溢れることなく足元に薄く溜まるだけだ。それがまた空間を美しく見せている。

 そんな場所で、右の神殿と左の神殿に分かれて言い争っている者たちがいる。

 右は一本角の、左は捻じれた二本角のペンギンたちだ。

 あまりのペンギンたちの数に引き返そうかと思っていると、そのペンギンたちが一斉にこちらを向いた。

 こうしてペンギン抗争に巻き込まれる事になった。



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