豪商屋敷の夜

/*時代劇風にやや大げさに演じてください。*/

/*登場人物3名 筑前屋→悪そうなおじさん おかみさん→気の強そうな熟女 侍→正義厨の若者*/




筑前屋「ふへへへへへ、たっぷりかわいがってやるからのう……」


女「お許しください!」


筑前屋「さあさあ、おとなしくおし……恨むんならお前のおとっつぁんを恨むんだね」


女「きゃあああああ! どなたか! 助けてえええ!」


侍「待て~い!!」

/*可能ならならばSE:襖がスパーンと開く音*/


侍「筑前屋作左衛門ちくぜんやさくざえもん! 情け深き篤志家とくしかを装いながら、町娘をかどわかし手籠てごめにしようとは、神をも畏れぬ悪行あくぎょうである! 日本国中大小神祇にっぽんこくじゅうだいしょうじんぎに変わって成敗してくれる!」


筑前屋「えっ?」


女「(殺意をこめて、侍に)は?」


侍「娘御むすめごよ、ここは拙者に任せ、く逃げるがよい!」


女「何よあんた! 人んちに夜中いきなり土足で踏み込んで! 町方まちかた呼ぶからね!」


侍「え、……待って、何その反応?」


女「押し込み強盗に待ってと言われて待つ馬鹿がいるもんかい」


侍「いや、そういうんじゃなくて、おぬしを助けに来たのだぞ」


女「誰が頼んだっつーのよ」


筑前屋「(小声で)やめようよおせいちゃん……こういう手合いは刺激したら危ないよ」


女「(やめずに侍に詰め寄り)あんたまさか、町方にお縄になっても、お白州しらすですぐ無罪放免されちゃう系? それか無敵の人ってやつ?」


筑前屋「そういうこと言っちゃだめだよ! いろいろ引っかかっちゃうよ!」


侍「何に?」


筑前屋「あ、いえ、なんでもござりませぬ」


女「さくちゃん、こんな奴に、何かしこまってんのさ」


侍「あっ!!……よく見たらこの女、おばちゃんじゃん……」


女「ああそうさ、おばちゃんで悪かったね!」


侍「ひゃあ……町娘コスきっつ」


筑前屋「お……おぬし、わしのお清ちゃんに無礼ではないか!」


女「(優しく)作ちゃん、いいんだよ……おばちゃんなのはほんとだもん」


筑前屋「だって! こいつわしの大事なお清ちゃんになめたこと言ってるよ? こんなに可愛くて似合ってるのに!」


女「いつも大事にしてくれてありがと……あたし、そんな作ちゃんが大好きだよ」


筑前屋「(ほろりと)お清ちゃん……」


侍「あのー、ちょっといいかな……おぬしら、なんか、顔見知りっていうか……親しそうなんだけど、もしかして付き合ってんの?」


女「あんた、何寝ぼけたこと言ってんの? あたしは筑前屋作左衛門のれっきとしたおかみさんだよ?」


筑前屋「そうだとも! わしの自慢の女房だ」


侍「え? じゃあ、さっき助けて~とか言ってたのは?」


女「あんたも頭悪いね。そういうプレイだったんだよ!」


侍「はい?」


女「聞こえなかったのかい?! プ・レ・イ!」


筑前屋「お清ちゃん、恥ずかしいよ……もうやめよう? ね?」


女「いいえ、やめないよ! このひとはね! 夫婦めおとになって十八年、おとなしくて優しくて、でもあたしに遠慮があるのを感じてたんだよ! 最近になって、あたしに町娘のおべべ着て、こういう風に悲鳴上げてほしいって、びくびくしながら打ち明けてくれたとき、あたしゃ本当にうれしかったんだからね!」


筑前屋「もうヤダ、恥ずかしくておてんとうさまに顔向けできない……」


侍「え? 金なら腐るほどあるのであろう? 手垢にまみれたおばちゃんではなく、その辺の若い子に金握らせてやればよいではないか」


女「何言ってんのあんた! ぶっとばすよ? そんなに命を粗末にしたいのかい?」


筑前屋「わしはお清ちゃんがいいんだよぅ……お清ちゃんじゃなきゃ嫌だ」


女「(ほろりと)作ちゃん……」


侍「えーと……もう帰っていいかな?」


女「待ちな! 人んちに夜中に押し込んできて、ただで帰ろうってのかい? 町方呼ぶから」


侍「あ、町方はいろいろ面倒なんで勘弁してください。お詫びにこれ置いていきますから」


筑前屋「般若の面? なんか呪われそう……」


侍「これ、すっごく由緒ゆいしょがあるやつで……これでお納めください」


女「(被せ気味に)由緒も甘藷かんしょもあるもんかい、このすっとこどっこい!」


筑前屋「お清ちゃん、町方が来ると時間くうからさ、このまま帰ってもらったほうがいいんだけど」


女「だってこんな狼藉ろうぜき、許せないじゃないか」


筑前屋「わし、それより続きがしたい……」


女「さ……作ちゃんがそういうなら、それでいいけどさ……(侍に向き直り)ここは作ちゃんに免じて帰らせてやるけど、今度こういう真似したら、町方呼ぶ前にあたしがぶっとばすからね」


筑前屋「お侍さん、うちのお清ちゃん、強いからね? その辺のお侍なぞ、ちょちょいのちょいでぶっとばすからね? 同心やおかきの人のほうが断然優しいからね」


侍「あっ、はい。左様さようならば、これにて」


女「ちょっと! その気色悪いお面は持って帰りな! それから、あんた、あたしたちに何か言うことはないのかい?」


侍「え?」


女「しつけがなってないねえ! 謝れっつってんだよ」


侍「……ごめんなさい」


筑前屋「どこで手に入れた情報でここに来たか知らないけど、これにりて、ガセネタに踊らされないように気を付けるんだよ?」



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時代考証ぶっ飛ばし時代劇台本集【フリー台本】 江山菰 @ladyfrankincense

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