お題「夜の砂漠」「絆創膏」「仕舞う」

 23時45分。

 準特急は静かに地下駅を滑り出す。レールを擦る金切り声は、残業を強いられた俺(たち)の怨嗟を代弁するかのようだ。


 空いた席に倒れ込むとネクタイを緩める。

 昼の熱い男は虚構。冷え切り、乾ききった今の心の景色こそが真実だ。


 地上に出た列車は墓標のような雑居ビル群の合間を滑り抜ける。

 ああ、俺もあの墓標の下に沈みたい。目に見える傷でもあれば、それを覆った80枚110円の勲章をひけらかしながら一日死者でいられたか。


 いや……


 きっとそれを仕舞って何食わぬ顔で明日も列車に揺られるのだろう。

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