お題「廃墟のレストラン」「剣」「請う」

いつからだっただろうか。

城壁の外にあるそのレストランが人々の話題にのぼるようになったのは。


曰く、そのレストランは廃墟のようだと。

曰く、そのレストランはシェフが狩った新鮮なモンスターが供されると。


今宵もまた、ディナータイムが始まる。





辺境伯領の城壁の外。

魔物の森の外縁部。

骸骨が両腕を広げたような樹の下に、そのレストランはあった。

建物は崩れかけ、廃墟にしか見えない。かろうじて屋根がかかっているその下には一席だけのテーブル。ここで晩餐が供されるのだ。

建物の荒廃に反して、テーブルにかけられたクロスは純白。銀の燭台と食器は磨き上げられ、客の顔が映っている。


今宵の客は好事家の貴族。

シェフか剣一本で狩ってきた、世にも珍しい食材を料理したメニューに舌鼓を打つ。


レッサークラーケンのマリネ。

橙マンドラゴラのスープ。

シラスシーサーペントのポワレ。

蟠桃のソルベ。

ゴルゴンのグリエ。

…………






最後の客が帰った。

シェフは後片付けを終えると、裏口から外へ出る。


そこには小さな墓があった。


シェフは片膝をつき、短く祈りを捧げると、墓石に語りかけ始めた。


「……師匠。ついに店を畳むことになりました。ついに腕を認められたんです。辺境伯から請われて、お抱え料理人になることになりました。敗残兵だった俺に料理を教えてくださったこと、感謝してもし切れません」


シェフは墓石に一礼すると、調理道具と長剣をまとめた荷物を背負った。


「また来ます。ここは俺の原点なんで」

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