お題 「夜空」「蜃気楼」「ヤカン」 ジャンルは「時代小説」

 囲炉裏に下げられたヤカン。

 湯気の向こうには、誰も居ない縄座布団が寂しそうに置かれている。


 男は――簾之助は蜃気楼を求め、妻をつれ浪人になってまで富山藩へ移り住んだ。

 だが、未だ見ることができていない。

 後に妻は死に、簾之助だけが遺された。


「ヤカンの湯気って綺麗。蜃気楼を呼んでくれそう」


 心に妻の声が再現される。


 やおら簾之助は小屋を出る。

 寒風吹きすさぶ中、彼は妻の声を求めて夜空を見上げた。

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