エピローグ 幸せの実感

 その後のことを少しだけ話しておきたい。


 あれから数日が経ち、夏希は麗音のおかげか元気を取り戻していったようだ。ある日グループチャットで俺と春華に唐突なメッセージを送ってきた。


『二人ともおめでとう! 祝ってあげるから、あたしの友達になりなさい』


 このちょっと偉そうな感じは、本当に学園の悪魔らしいと思う。どういう風に立ち直っていったのかは知らないが、俺は即座にグッドマークのスタンプを送る。春華は即レスで、


『もうずっと前から友達だよ!』と返しており、今は時折遊びに行く仲らしい。


 ちなみにバイト先のカフェにも、夏希は以前にも増して大きな態度でやってくるのだが、マスターはなんだか嬉しそうだった。詳しいことは教えてもらえてないが、麗音には本当に感謝している。


 そして今、俺と春華はちょっとしたデートの最中だ。日曜日の昼下がりに、小さなビル達や山、俺達が生まれる前からずっと流れ続けている美しい川を眺めつつ、二人で河川敷を歩いていた。白いワンピース姿が眩しくて、一緒にいるだけで幸せな気分になってくる。


「ねえ秋次君! 来月のハロウィン楽しみだね」


「そうか? 俺は仮装なんてやりたくないけどな」


「秋次君なら立派なカボチャになれるよっ」


「カボチャにはなりたくない」


「じゃあ幽霊がいいの?」


「幽霊もちょっとなー。メイク大変そうじゃん」


「ゾンビならメイクいらないね!」


「そう……って、俺の素がゾンビみたいなこと言うな!」


「あはは! ハロウィンの次はクリスマスだよ」


「まあ、まだ考えなくていいだろ」


「ダメだよ。ちゃんと計画性を、きゃっ!?」


「おいおい!」


 戯けた天使が転びそうになってしまい、また俺は寸前でキャッチした。あの階段の時以来、結構な頻度であるんだが、ドジは直せそうにないらしい。


「えへへ。ごめんなさい」


「気にするなよ」


「あ! 秋次く、」


 俺は立ち上がり、優しく彼女を腕の中に抱いている。思えばこのお姫様抱っこから全てが始まったんだ。きっと誰かに見られているだろうが、なぜか気にならない。まさに恋は盲目状態だった。


「……嬉しい。やっぱり王子様だね」


「買いかぶりだぞ。俺なんか、ただの冴えないダサ男だ」


「ううん。王子様だよ。私だけの」


 気がつけば俺は、彼女にゆっくりと顔を近づけていた。今回が初めてだし、ちょっとばかりキザ過ぎるかもしれないが、学園の天使は許してくれることを知っている。春華は頬を桜色に染めながら、静かに瞳を閉じた。


 今までの嫌な思い出が全て吹っ飛んでしまうくらい、心が満たされていることを感じる。こんな気持ちにさせてくれた彼女に感謝しながら、俺も同じく瞳を閉じる。


 雲ひとつない青空の下で、河川敷に浮かぶ二つの影がゆっくりと重なった。

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なぜか学園一の天使に、俺はストーカーされてる! コータ @asadakota

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