短編小説 『ただ見つめてたい』

天 下句

たった二人だけの世界

彼女の声は、心地が良かった

別に特別何か理由がある訳ではないけど 心地よく耳を通る

この静かな場所では、

うんざりしてくる現実も届かない気がしてた

この場所だけは間違いなく、僕ら二人だけの世界だった

流れている時間が明確に違うと分かったのは、出会って十年ちょっとが経ったくらいだった

彼女は、大人になっていた

それでも僕は、子供のままだった

それからまた暫く時間が過ぎた

彼女が結婚して、子供が出来た。

時々この場所にやって来て、

子供を遊ばせたりしていた

どうとも言えない気持ちだったけど

遊びに来てくれてるのは、素直に嬉しかった

子供は会う度に大きくなってた

それでも僕は、一向に何も変わらなかった

子供が、出会ったぐらいの彼女の歳になった頃に、

彼女と、彼女の家族が、子供以外全員死んだ。

理由は、部族内での内乱だった。

三ヶ月ぐらい、本当に何もしていなかった

生きる為の行為をしていなくとも、

僕は生きていた

僕は死ねないんだと、初めて理解した

何かをしだしたのは、彼女の子供が僕の元にやってきたからだった

どうしようも無いから、知っている僕を尋ねたらしい

ひどくやせ細っていて、傷だらけだった。

何もしないわけにもいかず

それから僕は 、生きるためのすべを教えながら育てた

十数年たった頃に数年居なくなると言い、どこかに行った

僕は何もしなくても死なないけど

彼は死ぬから、帰ってきた時の準備をずっとしてた

そのうちして、もしかして死んだんじゃないかとか考え出してどうしようなくなってきた頃に彼は、同じような歳の男女数人と一緒に帰ってきた

ここ数年の旅は、ここに集落を作る為の仲間探しだったらしい

何故そんなことをしたのかと聞いたら 僕が寂しそうだったからと言った

それからは、簡単に言えば発展と衰退のループだったよ

大きくなっては争って

また発展したと思えば戦争

そのうち僕は、神だとか、そういうのにはやし立てられた

​───────​───────

で今に至るんだ」

「へぇ〜」

「世界が無くなって、人があなたとあたしだけになるまで、そんなことがあったんだね!」

「ああ、そうだよ」

「けどさ?」

「なんだい?」

「なんでこんな話をしたの?」

「...似てたのさ」

「誰と?」

集落が出来て、数百年経った頃だった

子供が産まれて、見に行ったら

集落が出来て間も無い頃に居た、人間の顔だった

赤子だから多少の違いはあった

けど、多少の違いなだけでおかしいし

どこか、空気が似通っていた

やがて成長すると、瓜二うりふたつになった

その後も、何個かそんなケースを見た

生まれ変わるだとかそういう物だろう

ふと、彼女の存在が思い出された

もうどんな顔だったか

どんな声だったか

どんな容姿だったか

そんなのが居たという記憶しか無い

彼女だった

何時か、彼女も生まれ変わって、また会えるのだろうか?

そんな思いがよぎった

それで待っていたら、核戦争が始まって、世界は簡単に終わった

呆気なかった

何人か僕のほこらに居たから、

その内7人は保護出来た

それ以外は、外に出て、それっきりだ

けどそれから1,2年で全員死んだ

溜まった放射能が直接の原因だった

祠を出て

200年ぐらいは星を歩いていた

そうしたら、君がいたんだ

「最初の女の子とさ。」

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