第6話 ゴブリンたちと初交渉

 目を開けると、そこは真っ白な世界だった。まるで異世界転生前に神様と話す部屋みたいだった。まぁ、事前にリンちゃん先生に教えてもらっていたから、特に驚くこともなかったのだが。


 真っ白な空間には、簡素な机と椅子。


 俺は、机に近い方の椅子、つまり面接官の椅子に座った。机には十数枚の紙と、手持ちのベルが置いてある。


 今からここで何が行われるかというと…………、


 面接、そして交渉だ。ただし、相手は魔物だが。


 簡単に説明すると、先ほどの儀式は契約召喚獣と契約するためのものだ。


 普通の召喚獣は、他の魔術同様やる気の様なものを消費して呼び出す。しかも種族や種類は指定できるものの、個体差があり、また同じ個体を呼び出しても、前回の経験が反映されない。しかも、時間経過で消滅する。


 しかし契約召喚獣は、術者本人に取り憑き、術者が好きな時にノーコストで呼び出せ、また引っ込ませることもできる。経験を蓄積させることもできるし、時間経過での消滅もしない。しかも、戦闘や事故で消滅しても、1週間すれば復活する。なんと素晴らしいのだろう。


 とはいえ、デメリットもある。1つ目は取り憑ける数というか、召喚獣たちが根城にする部屋のようなものがある。その部屋の数が多ければ多いほど、より多くの召喚獣が取り付けるらしい。ちなみに、俺の数値は20だ。この年代での初期数値の平均は25。


 2つ目は、契約召喚の儀式は、そうポンポンとできないこと。この儀式は、術者に大きな負担を強いるため、最低でも2週間、普通は1ヶ月程時間を開けなくてはならない。


 話を戻すが、今からここですることは、ランダムで召喚した召喚獣と面接をして、契約するかどうかを決める。そして、契約する際に幾つの部屋を確保したいかの交渉を行う。


 説明が長くなってしまったが、これが先程の臨時講座で習ったことの一部だ。


 そんな事を誰に向けてでもなく、頭の中で復習する。その間に、手元の紙の内容を読む。この紙は、いわゆる経歴書のようなもののようだ。種族と申し込み番号と性別(名前は術者が決める)(召喚獣なので年齢や寿命はない)、基礎技量アビリティ特性タレント、これまでの経歴や備考などが書かれていた。それらを一枚一枚、丁寧に確認していく。



 結局、全ての紙に目を通すのに1時間近くかかってしまった。紙は合計で13枚あった。


 目を通してみてわかったが、こいつらは小規模なゴブリン軍隊アーミーだ。通称、ゴブリン分隊。大抵1人の分隊長と3つの班で構成されており、班は班長1人に隊員3人の計4人。班の兵科はランダムだ。


 今回、俺の元に応募してきた兵科は、剣兵セイバー一隊、弓兵アーチャー一隊、斥候スカウト一隊だ。


 備考を見たところ、特に問題はなさそうだ。


 むしろ、分隊長は【博識】、剣兵セイバー班長は【堅実】、弓兵アーチャー班長は【冷静】、斥候スカウト班長は【能動的】と、個人的には理想の特性タレントの持ち主だ。しかも、他の隊員も、専門的な特性タレントを持っており、かなりの有望株だ。戦闘の数値が平均よりかなり低いが、そこは鍛えればなんとかなるし、そもそも俺はそこまで戦闘をしたいとは思っていない。


 というわけで、そろそろ面接と交渉を始めるか。机の上に置かれているベルを鳴らす。


 すると、部屋に取り付けられていたドアから、13匹のゴブリンが入室してきた。


 腰に剣を履いたゴブリンが4匹、背中に弓を担いだゴブリンが4匹、モスグリーン色のローブを羽織ったゴブリンが4匹。そして先頭に立つ、一際目立つ兜を被り、刀を携えた大柄なゴブリンが1匹。


 彼等は俺の前に立つと、隊列を組み敬礼をする。



「ゴブリン216歩兵分隊分隊長、軍曹304番であります!」


「同じく、ゴブリン216歩兵分隊所属、剣兵セイバー班長、一等兵542番であります!」


「同じく、ゴブリン216歩兵小隊所属、弓兵アーチャー分隊長、伍長687番であります」


「同じく、ゴブリン216歩兵小隊斥候スカウト分隊長、伍長459番であります!」



 うわー、予想以上に軍隊してるよー。想像以上に戦争な感じだよー。



「お、おぉ。俺は、術者のソウヤだ。よろしく」


「よろしくお願いいたします。早速、交渉に入りたいのですが」


「あぁ、わかった」


 なんか、既に主導権を握られてる気がしなくもないが、このまま続けるか。というか、面接すっ飛ばしちゃったな。まっ、いっか(投げやり)。


「えー、こほん。俺の契約召喚獣の収容範囲数は20だ。君たちはどれくらいの範囲が欲しい?」


「我々としては、4つほど貰えれば…………」



 …………へ!? マジで? そんなに少なくていいの? 13人だよ? それだけの人数を、たったの4つで獲得できるのか!? 確か、召喚獣は食費がかからなかったはずだぞ? つまりなんだ? ほぼほぼ無償で13人もの労働力を確保できるということなのか?



 …………もしかしたら何か裏があるのか?



「あー、個人的にはとてもありがたい提案なんだが、何か他に要求するものはあるか?」


「い、いえ。我々としてはこれでもかなり貪欲に要求した方なのですが…………」


「お、俺は、多分お前らを労働力として使うぞ? 1年近く、街の中にこもって小銭を稼ぐつもりだぞ? 正直、戦闘とか全然するつもりがないぞ? それでもいいのか?」


「いえ、囮や壁代わりにに使われないだけマシです。それに、こちらとしても戦闘を極力行いたくなかったので…………」



 その後、いくつか質問をしてみたが、特に裏があるような様子ではなかった。


 話を聞いたところ、彼等はもともと戦闘力の低い分隊で、召喚されては壁代わりや囮に使われ、契約召喚獣として契約しても、収容範囲が1か2しか与えられなかったらしい。さらに、隊員が基本平和主義者で、街中で安定した職につきながら、平和な日々を過ごしたかったそうだ。


 俺にとっても、人件費無料で13匹の労働力が手に入るのは大歓迎だ。


 俺は、ゴブリンたちが出した条件で、契約を結んだ。

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召喚術師は逝く(精神的な意味で) 笹団子β @Raiden116

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