第2話 体育祭の準備①

 始業式が終わり、昼休みも過ぎ去った午後。

 残りの二時間は体育祭に向けての準備に充てられた。

 体育祭は中学とは違い、一週間後の土曜日に執り行われる。

 正直、各競技への練習時間に割く余裕はなく、ほとんどが開会式、閉会式、一通りの段取りで終わってしまう。

 そのため、競技の練習は大体が放課後。

 というか、放課後以外むしろない。

 そもそも体育祭なんてやる必要があるのだろうか? 俺自身、いまだに体育祭を執り行う意義がよくわからない。団結力にせよ、他の行事で間に合っているだろうし、九月というまだ猛暑日が続く中でわざわざ体調面を気にしながらやる方がおかしいと思うのだが……。

 と、そんなことを考えているとチャイムが鳴り響き、五限目の授業が始まる合図を知らせる。

 それと同時に担任の平先生が教室に入ってくると、さっそく黒板に何やらを書き始めた。

 よくよく見ると、競技名とその下に数字が書かれている。あの数字はたぶん参加可能人数を表しているのだろう。

 平先生はすべてを書き終えたところで身をひるがえして、俺たちの方に体を向ける。


「それじゃあ、今から体育祭の出場競技を決める。君たちも知っての通りだが、来週に体育祭が開催される。こんな暑い中でやるのも正直バカバカしいが、まぁ仕方あるまい。学校の決めたことだしな。各競技については黒板に板書した通りだ。どのような競技なのかについては私から説明しなくてもある程度はわかっているだろ? もし、わからない競技があった場合は周りの人やスマホでググるなりして調べるがいい。席は離れていいから各自で話し合って決めてくれ。各競技には決まった人数というものがあるから、もし誰かと被ったりして、上限オーバーしてしまった際はじゃんけんや話し合いなどで決めるように。あ、それと決まった人は競技名の下に名前を書くんだぞ」


 それだけを言うと、平先生は何か他に用事があるのか、教室をそそくさと出て行った。

 ——出て行っていいのかよ……。

 先生がいない教室というものはすごく騒がしい。

 なにせ、教室内での最高権力者である先生が一時的にいなくなるからな。それによってみんなは好き放題しまくる。

 まぁ、平先生からしてみれば、体育祭の競技が決まればそれでいいという考え方なのだろう。適当すぎる……。

 そんなことを思っていると、隣の席のあーちゃんがツンツンと肩を突いてきた。


「りょーくんはもう決まってる?」

「いや、まだ決まってない。そう言うあーちゃんはどうなんだよ」

「わ、私は……りょーくんと一緒ならどこでもいい、かな……」

 そう言われてしまうと、どことなくくすぐったいものを感じてしまう。

「二人ともラブラブだね」

「え……って、結花か。茶々を入れるんじゃねーよ」


 いきなり割って入られたから一瞬誰だかわからなかった。

 結花はニヤニヤしながら俺とあーちゃんの様子を窺っている。

 一方で茶化されたあーちゃんは顔を赤くしてしまう。

 そんなあーちゃんを見た結花は爽やかスマイルを見せながら「ごめんごめん」と軽く謝った。


「そこまで反応されてしまうと、僕がなんか悪者みたいになるじゃないか」

「実際に悪いのは結花だろ……」

「そう言われるとそうなんだけど……それより二人ともまだ決まってないんだよね?」

「そうだな。俺もあーちゃんも特にやりたい競技とかないからな」

「なら、ムカデ競争とかどうだい?」

「「ムカデ競争?」」


 俺とあーちゃんの声が重なった。

 ムカデ競争って、たしか両足を固定して一列に並んだ状態で前へ進む競技だったような気がする。それでスタートからゴールまでどのチームが一番早いかを競うんだったよな?

 とりあえず俺は黒板に書いてあるムカデ競争の参加人数を確認する。

 数字は三……ということは、俺たちでちょうどというわけか。

 俺はあーちゃんの方に一度目線を送る。

 すると、あーちゃんは無言のままコクンと一回頷いて見せる。

 特にやりたい競技はないし、できれば何もせず観戦側に回りたいところではあるが、それは病気や深刻な怪我以外、到底許されるわけもないし……ムカデ競争でいいか。


「わかった。じゃあ、それでいいぞ」

「そう? ありがと」


 結花は優しく微笑むと、名前を記入しに一旦俺たちのところを離れ、黒板の方へと向かっていった。

 ムカデ競争ならまぁ……三人だし、あまり放課後に練習しなくて済むだろう。



 

 

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