第2章

第1話 二学期の始まり

 両手に花……なんていう言葉を聞いたことがあるだろうか?

 よくハーレム状態のことを示されるのだが、今の俺は周りから見たらそのような状態だろう。

 長かったようであっという間だった夏休みが明け、二学期最初の登校日。

 朝から大勢の注目を浴び、居心地悪そうな表情をして登校しているのがこの俺である。

 その注目を浴びる原因を作っているのが、両サイドにそれぞれ歩いている前幼なじみことあーちゃんと現幼なじみこと舞。

 二人は学校の中でもずば抜けて美少女と呼べるくらいの容姿で男子からの人気も絶大的に高い。

 故に俺は現在進行形で男子から鋭い目線を向けられ、標的にされているのだが……。


「おはよ、りょーすけくん。二学期も相変わらずだね」


 校門をくぐり抜け、靴箱に向かうと、ちょうど上履きに履き替えようとしていた親友の結花と遭遇した。


「相変わらず、か……」


 俺は思わず苦笑してしまう。

 この状況には慣れてきてはいるが、やはり人の視線にはどうしても慣れない。もともとから人の視線には苦手という理由もあるが、この状況がこれからも続くとなると……ストレスでどうにかなってしまいそうだ。


「じゃあ、僕は先に行くね。(ちゃんと一人に絞り込むんだよ?)」

「え?」


 去り際に耳元でそう囁かれた。

 俺は訳がわからないまま、どのくらいかその場で考え込んでしまう。

 ――どういう意味なんだ?

 まぁ、ここで考えても仕方がない。

 俺は、上履きに履き替えると、待っていた二人とともに教室へと向かった。



 教室に入ると、もうすでに大半のクラスメイトが来ていた。

 それぞれ仲のいい人同士で集まり、夏休みの間何をしたのかの話で盛り上がっている。

 クラスメイトの中にはイメチェンをしたのだろうか、髪型が変わっている人もちらほらと見受けられる。

 俺以外のみんなは充実した夏休みが送れて、さぞ羨ましいなと心の底で思いながらも、自分の席へと座る。

 始業式は午前九時からだ。その前に担任の先生による朝礼があるのだが、平先生が一向に現れない。

 もうすぐで朝礼の時間だというのに、何かあったのだろうか?

 そんなことを思いながらも、カバンを机の横にかける。

 それからして数分遅れで教室の引き戸がガラガラと音を立てながら開く。


「遅れてすまない……朝礼始めるぞー」

「って、一体何があったんですか?!」


 俺はあまりの変貌についツッコんでしまった。

 平先生の目下には隈ができており、どう見ても寝不足でフラフラな状態。夜中遅くまで学校の何かに関する職務作業をしていたのだろうか? と、当初は思っていたのだが、俺のツッコミに反応した平先生が「あ、これか」と言って、説明を始める。


「実はな、夜中にゲームのイベントがあったのだが、それがなかなかクリアできなくてな。翌日仕事から帰った後にしようかとも思ったのだが、そのイベントが限定開催で……仕方なく」


「どこが仕方ないんですか!? まずは仕事と体調が優先でしょ?!」


 俺だってソシャゲをしている身だからその理屈は分からなくもない。

 だが、この俺でさえ、その日限定でしかも夜中にあったとしてもやらねーぞ? 次の日が休日とかなら徹夜してでもやるかもしれないけど、さすがに学校となると、授業中がキツくなって無理。

 先生は虚ろな目を俺に向けながら、「ヘッ」となぜか鼻で笑い飛ばす。


「これだから神崎は甘いんだよ。ゲームはな戦いなんだよ。命をかけたものなんだよ」


 あんた絶対仕事選び間違ってるわ。プロゲーマーが天職だったんじゃないか?

 そもそもゲームに命をかけている時点でただ娯楽という欲求を満たすためにゲームをやっている俺たちとは格が違う。

 平先生はコホンと咳払いをし、腕時計で時間を一旦確認した後、手に持っていた資料らしきものを見る。


「とりあえずこのままでは始業式に遅れてしまうから、手短に連絡事項を読み上げるぞ。聞き漏らしがないようしっかり聞いておけよ。後で分からないですとか言うのはなしな? いちいち説明するのもめんどくさいし」


 そう言ってから平先生は本当に手短に連絡事項を読み上げる。

 普通なら出席確認とかもするのだが、遅れてしまった分の時間短縮という意味合いも込めて今日は省かれた。

 ……本当にプロゲーマーに転職した方がいいんじゃないスか? 

 ゲームの腕前はどのくらいかは知らないが、平先生に教師が向いているとは思えない。

 朝礼はものの二分で終わり、平先生は飛び出すように教室を出て行った。


「りょーくん、どうする? まだ他のクラスは朝礼中みたいだけど……」


 隣の席に座っているあーちゃんがそう訊いてくる。

 クラスメイトの中にはすでに始業式が行われる体育館に向かっている人もいるみたいだが、他のクラスがまだじゃ、行っても準備とか整っていないかもしれない。

 早めに行くだけ無駄だ。

 

「そうだな、他のクラスが移動し始めたら行くか」


 そっちの方が無難だろう。

 まぁ、体育館入り口前は全校生徒が上履きを脱ぐということもあって、混雑はすると思うがな。

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