第24話 親子丼【1】


 その日の翌日、朝から長谷部さん部屋を再び訪れた。

 ルームウェアの長谷部さんは新鮮だ。

 いつもしっかり着込んでるし……。


「おはよう」

「おはようございます……」


 姉さん、すまん。

 思わずにはいられない。

 姉さんより早く長谷部さんの部屋に入ってごめん。

 姉さんより早く長谷部さんのルームウェア姿とか見てごめん。


「では早速始めます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 まずグラニュー糖とアーモンドプードルを玉を作らないように混ぜておく。

 常温に戻した昨日の卵白へ、それを数回に分けて投入。

 ハンドミキサーでかき混ぜる。

 ツノがたつくらいしっかり混ぜたら、キッチンペーパーを敷いた鉄板に絞り袋に入れた生地を出していく。

 表面が平らになるように乾燥させ、温めたオーブンで20〜30分焼いてから常温で冷ます。


「中に挟むクリームはグラニュー糖と生クリーム、バター。バターは塩が入ってるから、無塩バターを使う時は少し塩を入れるといいよ」

「は、はい」

「それをのの字を描くように片方に載せ、もう一つで挟む。うん、こんな感じ」

「おお〜!」


 すげぇ、マカロンが本当に出来た!

 マカロンって本当に家で出来るものなんだ!?

 すげぇ、すげぇ! ちょっと感動!

 テンション上がっちゃったよ!


「これをひたすら繰り返す……」

「…………」


 ひ、ひたすら……。




 ──四時間後。


「まだ作るんですか……」

「あいつにかかれば三十分でなくなるよ。でもまあ、そろそろ昼だし一旦終わりにしよう……」

「一旦……」


 まだ続くのかこの製造作業……どんだけ作るんだ。

 もう百個くらい作ったんですけど……?


「まあ、でも幸介くんはそろそろ上がってもいいよ。好きな味のマカロン持って帰りな」

「え、いいんですか?」

「うん、今日一日はずっと作ってる。午後からは抹茶と紅茶と栗とチョコレートを作るよ」

「…………」


 ちなみに午前中にはココア味と苺味とオレンジとアーモンド味を作りました。

 ……まさか他にもまだ味の種類を作るとか……。


「て、手伝います」

「いいの?」

「全種類、せりなちゃんにあげたいので」

「ふふ」


 笑われてしまった。

 でもここまで来たらやるしかない。

 全種類……ココアと苺とオレンジとアーモンド、抹茶と紅茶と栗とチョコレート……八種類もマカロンがゲット出来る機会とかそんなにないし!


「ホワイトデーまでまだ結構あるけどいいの?」

「えっと、そ、その時は、別なお菓子の作り方を教えてください」

「……いいよ」


 すごく優しく、笑いかけられてしまった。

 イケメンって本当得だよなぁ。

 そんな風に思っていたら、鍋を取り出された。

 まな板の上には鶏肉。


「?」

「昼ご飯は親子丼でいい?」

「え! い、いいんですか?」

「いいよー。手伝ってくれてるし、このくらいは作るよ。それとも一緒に作る?」

「は、はい!」


 自分でも作り方を覚えておけば、せりなちゃんの手を煩わせる事もない。

 ぜひ、とお願いすると長谷部さんはまた微笑んだ。

 クッソ、イケメンだな!


「鶏肉は少しだけ醤油と酒とみりん、砂糖を混ぜたタレに漬け込むよ。鳥ももを使う場合がほとんどだけど、俺、胸肉も好きだから胸肉を使うね」

「へあ、は、はい」


 鶏胸肉ってそういえばあんまり使う事ないよな。

 唐揚げも鳥ももだし、焼き鳥も鳥もものイメージ。

 それに一口サイズに切った鶏胸肉を、先程言ったものを混ぜたタレに漬ける。

 唐揚げではないので、タレもあとでそのまま使うらしい。


「次は玉ねぎ」


 玉ねぎは市販のスライサーという便利グッツでドゥルルっと切ってしまう。

 え、こんな便利グッツあるんだ。すごい、いいな!


「フライパンに油をしいて、玉ねぎを焼く。柔らかくなったら玉ねぎが隠れるくらいの水と、肉をタレごと入れて混ぜながらさらに火を通していくよ」


 タレそのものだとしょっぱくなるから水を少し入れるのか。

 火が通ったら卵を溶いて満遍なくかけていく。


「硬い方がいい? それとも半熟がいい?」

「うーん……俺は硬い方が……」

「じゃあ今日はそうしよう」

「普段は半熟なんですか?」

「俺、半熟よりやや硬めが好きなんだよね」

「え、俺もそれが食べてみたいです」

「そう? じゃあ俺の好みにしてもいい?」

「はい!」


 そういえば、前にせりなちゃんとスーパーに買い物に行った時こんな話をしたな。

 卵焼きは出汁派か甘い派か。

 目玉焼きは硬い派か半熟派か。

 そんな事を聞いてくるせりなちゃんの方こそどうなんだろう?

 正直俺はあまり料理……食事にこだわりが薄い方だった。

 食えればなんでもいいし、なんなら毎日カップ麺でもいい。

 だから人の手作り料理って……すごく、未だに……憧れがあるのだ。


「ご飯よそってくれる? お皿は適当にそこのやつ使って。炊飯器はそこね」

「は、はい」


 炊飯器でちゃんとご飯炊いてる……長谷部さんすごい。偉い……。


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