コレハ死ンダアナタニ贈ルラブレターデス/ルクラン

ルクラン

…………ウツクシイ……

「あぁ……なんて美しいのだろう。」


僕の名前はタケル。高校一年のごくごく普通の健全な男子高校生。



僕には、ずっとその美しさに惹き付けられ、心を掻きむしられる相手がいる。

それは幼馴染のユイという同い年の女の子だ。

ユイの家は僕の家の二つ隣。

小学一年生の時にここに越してきた僕とはいつも一緒だった。公園でもよく遊んだし裏山にも遊びに行った。

その頃から人一倍綺麗だったユイは、近所ではお人形さんの様だと有名になるほど。

それでもユイは優しくて奢らず真っ直ぐに育った。

少し変態ちっくだけど僕はそんなユイの美しさをいつも一人賞賛していた。


スキ…という感情とは少し違う。

確かに美しいと思うけれど、それは宝石や大自然の織り成す奇跡の様な感覚だった。ただ見ていられれば良い。

透き通る様な長い黒髪、美しい物しか見えていない様な二重で可愛い目。浅い紅色で薄い唇。どこを取ってもユイの美しさは完璧だった。いや。どこが欠けてしまってもユイという美しい人を表す事が出来ないのかもしれない。


ユイの美しさをこれだけ表現すれば、どれだけ彼女が凄いのか分かるだろう。でも残念な事に最近はユイと喋る事が出来なくなってしまった。


人間という生き物は美し過ぎる対象を直視出来ないという本能でもあるのだろうか?

昔の様に仲良くお喋りでもしていたい気持ちと裏腹に僕の手足は固まって近づく事さえ出来ない。


そこで僕は一枚のラブレターを書く事を決意した。

喋る事が出来なくてもこれならこの気持ちを伝える事が出来るしあわよくば昔の様に仲良くお喋り出来るかも…なんて都合が良すぎるだろうか?


そして今日。このラブレターを彼女に渡す。そぉ決めて家を出た。はずなのだが…僕は臆病者だ。

いざ目の前にユイがいると手足が動かなくなってしまう。それでも!!


思い切って僕は久しぶりにユイに声を掛けた。


「あ、あの…」


「え?」


振り向いたユイの髪から花の蜜の様な良い香りがフワリと漂う。


こんな街中の交差点には似つかわしくない香りに心臓が凍ってしまう。ユイの美しい声は僕の脳みそをグラグラと揺らす。


「あ、あのー…タケル君…だったよね?」


「あの!これ!」


「え?私に…ですか?」


「はい!読んで下さい!」


「え?は、はい…」


僕の思いを綴ったラブレター。

どれだけ君が凄い人なのかを必死に書いた。何度も書いては破り書いては破り。やっと完成したラブレター。


「あの…今読んで良いんですか…?」


「お願いします!」


感想をもう一度聞きにユイの前に立つなんて臆病者の僕には出来そうも無かった。


便箋に入った僕の手紙を読み進めるユイ。

右から左にユイの目が動く。


そしてそれが四度目の動きを見せた時…ユイはゆっくりと僕の顔を見てこぉいった。


「なんで…」


「??」


「なんで私の事…」


そしてユイは突然走り出した。


プップー!!


大きなクラクションの音と共にユイの体が宙を舞った。僕の目の前でユイは大きなトラックに轢かれてしまった。


直ぐに人が集まり始めた。僕は必死に助けを求め、そしてユイは病院へと運ばれた。


なぜユイはいきなり走り出したのだろう?なぜあの時ユイを止められなかったのだろう。なぜ!僕は頭がおかしくなるくらいの後悔に苛まれ続けた。毎日、ユイが事故に遭う瞬間を夢に見た。

その度に飛び起き涙が止まらなかった。


結果から言えばユイは植物人間へと変わり果てた。


物も言わず、息をするだけ…


見舞いに行くと必ずユイのお母さんがいて、いつもありがとうとお礼を言われる。それが僕には辛かった。助けられなかったのは僕のせいなのに…


でもそんなある日、僕は気付いてしまった。


こんな風に眠り続けるユイの美しさに。


確かに彼女は何を言うわけでも無いし何をするでもない。ただそこに有るだけ。肉体は生きているのに実質死んでいるのと変わらない。


それでも彼女はウツクシカッタ。


僕は大きくなり働く様になり、そしてある時決意した。ユイと結婚しようと。スキという感情とは違うと思っていたのに、毎日彼女の安らかな寝顔を見る度に僕の気持ちは変化していった。


ユイの両親には猛反対された。そりゃそぉだ。傍から見れば僕はこれから先一生ユイの世話をするだけ。誰でも反対するだろう。それでも押し切った。


あれだけ反対していたユイの両親も自分の娘の花嫁衣裳を見て涙を流していた。


病室の結婚式。


それから僕はユイと二人暮しを始めた。


病室でなくとも看護は出来る。

毎日ユイの美しい姿を見られるだけで満足だった。


そして結婚してから三年が経った時、神様が僕達に奇跡をくれた。ユイが目を覚ましたのだ。


「あ…あれ……わたし……」


全然喋っていなかったユイの声は掠れてしまっていたけど間違いなく彼女の声だった。


「足が…」


彼女は事故の時に両足を失っていた。


「気が付いたの?!まさか!そんな!あぁ!神様!ありがとうございます!」


「あ…あなた…は?」


「僕だよ!タケルだよ!」


「タケ…ル…?」


「何も思い出せないかい?」


「タケル…タケル……?!」


「思い出してくれたんだね?!なんて事だ!」


あまりの嬉しさに僕は情けなくも泣き出す所だった。なのに彼女は大きな声でイッタ。


「助けて!お母さん!お父さん!助けて!」


「大丈夫!もぉ助かったんだよ?!トラックはもぉいないから!」


「やめて!触らないで!」


「え…?」


「覚えてるわ!あなたのあの手紙!」


「本当かい?!」


「なんで私の事あんなに知ってるのよ!?話した事も一度しか無いのに!!」


「そ、そんな…僕は…」


「助けて!誰か!!誰かー!!」


僕は放心するしかなかった。何を言っているのか分からなかった。取り乱す彼女は……ソレデモウツクシカッタ。


「ユイ。大丈夫ダヨ。君ハソレデモウツクシイ。アイシテル。」


動けない彼女の支えは僕だけだ。ならずっと彼女は…エイエンニ…


そして今日。僕はまたユイにラブレターを書いた。あの日渡したラブレターはユイの美しさを表す手紙。でも今回は、どれだけキミヲアイシテイルカ。それを伝えるためのラブレター。


キィー


鉄格子の音が耳に届く。ラブレターを渡しに、今日もユイの美しい姿を見に行こう。恐怖に怯える彼女の顔は………


ヤハリウツクシイ。

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