【恋愛】「役者」「人形」「心」

「仕事も終わったし、この後食事でも行かないか」

「明日も早いので失礼します」


「遅い時間になってしまったから、君の家の近くまで送るよ」

「お気遣いありがとうございます。でも結構です」


「俺のこと、男として見てほしいんだけど……。君はどう思ってる?」

「見ていますよ。あなたはわが事務所が誇る大事な役者ですから」



 恋の芝居ならいくつもやってきた。

 女性が喜ぶ台詞なら何本も脚本を読んで知っている。

 顔と声だけじゃない。仕草一つにだって情を入れて相手に向けることができる。

 テレビを通してファンになってくれる視聴者でも、初めて会ったばかりの女性でも、目を合わせて甘い言葉を囁くと、次第にその身を委ねてくれるようになった。


 それなのに、どうして。


 どうして君にだけは通用しないんだろう。

 どんな風に仕掛けても、まるで人形のように静謐な表情のまま。

 いかなる誘いも応じないし、口説いてもかわされる。

 培った演技力を駆使しても、あるいは役者の皮を脱ぎ捨てて迸るまま感情をぶつけても、君のその凪いだ瞳は決して揺らがない。

 どうしたらその目を見開き、驚いてくれるのか。

 どうしたらその唇を緩ませ、微笑んでくれるのか。

 何とかして君の平静さを崩したいと思っているうちに、完全に君に囚われていることに気づいた。


 もっと奥の、もっと深くにある、君の心に――――触れたい。

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