【異世界FT】「橙色」「ブルーベリー」「図書室」

 木漏れ日の降り注ぐ昼下がり、城の外庭で図書室から借りてきた恋愛小説を読む少女がいた。

 緩く巻かれた白金の髪は豊かに波打ち、時折悪戯なそよ風に弄ばれる。

 宝玉のような瞳は碧で、ゆっくりと文字を追うに沿って長い睫毛がその輝きを覆い隠す。

 何も塗っておらずとも瑞々しさを放つ唇は、心地良さげに弧を描いていた。


「お嬢様、お待たせいたしました」


 そこに、ワゴンを押しながらやってくる青年の姿があった。

 すらりと伸びた背に燕尾服がよく似合っており、所作も洗練されている。

 青年は慣れた動作で準備を行い、少女の眼前には、瞬く間に一枚の絵のようなセットが出来上がった。

「今日のおやつは何かしら?」

「プレーンのスコーンとダージリンティーでございます。ジャムはラズベリー、ブルーベリー、ブラックベリーと各種揃えております」

「まあ、どのジャムにするか迷ってしまいそう。見ても食べても楽しめるなんて、さすが私の執事ね」

「恐れ入ります」


 少女が完璧に整えられたティータイムに満足していると、はらりと木から落ちた葉がテーブルに乗った。


「これは…大変失礼いたしました」

「いいのよ。橙色に染まりきってしまったのね。もうすぐ冬がやってくるわ」

 綺麗に色づいた葉をつまみ、青年を見上げながら差し出す。


「あなたと出会った、季節だわ……」


 決して色褪せない過去の出会いを思い返しながら、青年は黙って少女からの贈り物を受け取った。

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