【恋愛】「神様」「迷信」「楽園」

『初恋は実らない』なんて迷信だ。

 現に私は生まれて初めて好きになった人に一世一代の告白をし、無事オッケーをもらった。

 この度、晴れておつき合いすることになった私のカレ、斎藤君は、誰にでも優しくて笑顔の爽やかなクラスメイト。

 同じクラスになってすぐ好きになったけれど、どの女の子に対しても分け隔てなく接する斎藤君を見て、私もただの同級生の一人なんだとずっと思っていた。

 だからこそ、自分の持っている勇気をかき集め、痛いほど高鳴る心臓を何とか静めながら、思いきって「好きです」と告げた時、

「僕もだよ」

 と照れながら応えてくれたのが奇跡で、天にも昇るような気持ちだった。


 とはいえ私達はまだ高校生。

 せいぜい学校帰りに寄り道して買い食いするとか、休日の昼間に映画を観たりショッピングをしたりして楽しむぐらいだ。

 斎藤君はいつも「もっと色々なところに行って遊んでもいいんだよ」と言ってくれるけれど、カレと一緒にいられるならどこだって楽園パラダイスになるのだから、私は十分満足している。

 それ以上に、斎藤君が私に向けてくれる笑顔が眩しくて、ことあるごとに気遣ってくれる温かさが嬉しくて、緩みっぱなしの頬を元に戻すのが大変だった。

 カレができるとこんなに幸せなんだということを毎日実感していた。


 けれど斎藤君は知らない。

 毎朝鏡の前で「おはよう」と挨拶して笑う練習をしていることとか。

 放課後に二人でスイーツを食べた日は、晩ご飯の量を減らしていることとか。

 デートでお弁当を持っていった時は、一週間前から料理を練習して失敗作を山ほど作ったこととか。

 今も毎日かかさず縁結びの神様が祀られている神社を訪れ、「斎藤君とずっと仲良くいられますように」とお祈りしていることとか。


 こんなのは努力でも何でもない。

 少しでも斉藤君の彼女として可愛くいられるように、私がやりたくてやっていることだ。

 だから斎藤君は、油断して締まりのない顔になっている私に気づいても、気づかない振りをして優しく微笑んでくれたらそれでいい。

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