【恋愛】「戦争」「リンゴ」「ゆがんだかけら」

「ねえソール、私欲しいものがあるの」

「何だい、ルナ?」

「私、『金の林檎』が欲しいわ」

「それは、この世界のどこかにあるとされる『金の林檎がなる木』に、たった一つだけできるという林檎のことかい?」

「ええ、そうよ。だってその林檎を食べると、不老不死になれるのでしょう?」

「言い伝えだとそう言われているね」

「あなたと永遠の時を共に過ごしたいの。だから『金の林檎』を見つけて、一緒に食べましょう?」

「それは良い考えだね。僕が見つけてくるから待っていて」


 ソールは長い時をかけて『金の林檎』を求め彷徨った。

 同じ間、ルナは恋人の無事を願って待ち続けた。

 その果てに、とうとうソールは目的の地へと辿り着き、たった一つだけ実を付けていた『金の林檎』を手に取り彼女の元へ持ち帰った。


「ルナ、遅くなってごめん。『金の林檎』を見つけてきたよ」

「本当に? ありがとう。これでソールと永久に一緒にいられるのね」

「そうだよ。もう片時も離れることはない。さあ、食べてみて」


 ルナは『金の林檎』を一口齧った。

 瑞々しい果実の香りが辺りを満たし、美味しそうに咀嚼する。

 しかしそれを一息に嚥下すると、途端に喉を押さえて苦しみ出した。

 みるみるうちに顔が白くなり、手から林檎が零れ落ちる。

 その場に倒れ伏したルナに何度声をかけても、彼女が息を吹き返すことはなかった。


「ああ、ルナ、ルナ。どうしてこんなことに……」

「その女が食べたのは『金の林檎』じゃないからよ」


 ソールの背後に一人の女性が立っていた。


「ステラ? 何を言っているんだ」

「よく見て。それは金粉をまぶしただけで、本物の『金の林檎』じゃないわ」


 ソールが落ちた林檎を確認すると、ステラの言う通り、金粉の下に銀色の皮が覗いていた。


「それは『銀の林檎』。食べた者を一瞬で死に至らしめる猛毒が入った林檎よ。私がすり替えておいたの」

「なぜそんなことを……」

「決まっているでしょう。その女が私からあなたを奪ったからよ。だから奪い返しただけ」

「そんな……ルナは僕のせいで!?」


 事態を悟ったソールは、絶望のあまり自ら『銀の林檎』にかぶりついた。

 ステラが止める間もなく、血を吐きながらルナに寄り添うようにして息絶えた。


「まさかソールも『銀の林檎』を食べるなんて思わなかったわ……。でもルナとの戦いには勝ったのだもの。彼は永遠に私のものよ!」


 誰にともなく宣言すると、ステラは冷たく横たわるソールを抱き締める。

 後には彼女の哄笑が延々と響いていた。

 二人が齧った部分の欠けた、歪な形の林檎だけを残して。

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