【百合・恋愛・幼馴染・魔女】ニナとヴァネッサ

小説投稿サイト「ノベルアッププラス」百合フェア2020応募作品の転載です。

https://novelup.plus/story/793960441


【作品タイトル】

ニナとヴァネッサ


【エピソードタイトル】

ずっと一緒にいたい


【あらすじ】

ヴァネッサは私の自慢の幼馴染だ。

けれど、最近どうも彼女の様子がおかしい。


――――――――――――――――――


 ヴァネッサは、私の幼馴染だ。

 宵闇のような髪を腰よりも長く伸ばしていて、透き通った銀の花で飾っている。オニキスのような黒い瞳は、強い魔力を持った魔女の証。


 彼女はとても優秀だ。

 大通りの北側にある彼女の店にはひっきりなしに客が訪れる。

 宝石に魔力を込めたアクセサリーが評判なのだという。


 富を呼ぶもの、災いを避けるもの、縁を結ぶもの。

 どんな願いでも、彼女が作るアクセサリーがあれば思いのままだ。

 特に、彼女の作るエンゲージリングはとても強力だ。カップルが嵌めるとずっと幸せに暮らせるという。

 だから、わざわざ遠いところから彼女のアクセサリーを買いに来る人もたくさんいる。


 魔力を込めたアクセサリーはとても効果が高い。

 もしそれが悪用されては問題になる。だから彼女は、幼い頃から人を見る目を養わなくてはならなかった。

 そんな彼女が私と一緒にいてくれるのは奇跡のようだ。

 いや、もしかしたら本当はもうとっくに見限られているのかもしれない。


 私だって彼女と同じ魔女だけれど、ヴァネッサと比べると我ながら見劣りしてしまう。

 背だって低いし、頭もよくないし、ヴァネッサのように美人でもないし。

 裏路地に店を構え、薬草を使って薬を作り、細々と生計を立てている。

 惚れ薬、風邪薬、鎮痛剤。猫の脱毛症を直す薬だってある。効果はそれなりに保証するけれど、飲み続けなくてはならないのが厄介だ。

 ヴァネッサのアクセサリーは、ただ身につけるだけで人を幸せへと導くのに。


 近頃、ヴァネッサは以前に増して大人びた気がする。

 遊びに誘っても一緒に出掛けてくれなくなったし、どこかよそよそしい。

 昨日は視線さえ合わせてくれなかった。寂しい。悲しい。


 彼女はもう、手を繋いで散歩したことも、ベッドに寝転んでくっついて眠ったことも、二人で星を見たことも、忘れてしまったのかもしれない。

 それでも、私は未練がましく彼女のことばかりを考えてしまう。

 どうしたらずっと彼女と一緒にいられるのだろう。



   ★ ★ ★



 ある晩、私はクッキーと水筒を持って出かけた。

 今日は年に一度の星が降る夜。

 いつもはヴァネッサと一緒に来ていたけれど、今日は一人だ。


 周りはカップルだらけ。気付かないふりをして、空を見上げる。

 あっと歓声が上がり、空に次々と星が流れ始める。

 二人で見上げた夜を思い出しながら、私は願いを唱える。

「ヴァネッサに会いたい、会いたい、会いたい……」


 呟くたびに悲しくなり、いつのまにか目から大粒の涙がこぼれていた。

 慌てて拭おうとしたそのとき、声をかけられた。

「ニナ?」

 振り向かなくてもわかる。ヴァネッサの声だ。

 慌ててうつむくと、彼女が私の隣に座る気配を感じた。


「なんで泣いてるの」

「星が綺麗だから」

 強がってそう答えると、ヴァネッサは小さく笑った。

「そう」


 誤魔化すように、持ってきたクッキーを差し出す。

「食べる?」

「ありがとう。もらうわ」

 ヴァネッサがクッキーを受取り、食べてくれる。

 それだけで少しほっとした。

 明るい気分になる薬草を生地に練り込んで焼いたから、彼女が少しでも楽しい気持ちになってくれると嬉しいなと思う。


「ヴァネッサ、お茶いる?」

 私は彼女に尋ねた。

「ええ。ありがとう」

 水筒にお茶をつぐと、彼女は私からそれを受け取った。

 そして、少し冷ましてからゆっくりと口をつける。

 私はドキドキしながらその様子を見守った。


 その時、私は彼女がペンダントをつけていることに気付いた。

 ヴァネッサが作った、魔力を込めた石のアクセサリー。

 ……そうか、彼女には恋人ができたんだ。

 だから私と会ってくれないのか。

 ひとつの疑問が解けて、私は叫んだ。


「待って。飲んじゃダメ!」

 ヴァネッサは驚いたように私を見た。

「どうして?」

「それ……薬が入っているの」

「なんの?」


 彼女の瞳が真っ直ぐに私を見る。

 下手なことを言ったら、じゃあ飲んでも平気ねと言われてしまいそうだった。

 私は正直に答えた。


「……惚れ薬が、入ってるの」

「へえ。ニナはそれを私に飲ませようとしたのね」

「ごめんなさい。忘れてたの」

「一人でいるのに、どうしてこんなものを持ってきたの?」


 ヴァネッサの追求に、私は咄嗟の嘘をつく。

「……素敵な男の子がいたら飲ませようと思って」

「へえ。ニナでもそんなことするのね」

 軽蔑したようなヴァネッサの声。

「待って、違うの、本当は……」

「本当は誰に飲ませようとしたのか、教えてくれなきゃ嫌いになる」

「……ヴァネッサに……」


 彼女の名前を呼ぶ声が、震えた。

 ああ、これで完全に嫌われてしまう。

 止まっていたはずの涙がぽろぽろとこぼれてくる。


「甘い香りがするのね」

 そう言ってヴァネッサは私の前でお茶を一気に飲み干した。

「嘘、なんで……」

「大丈夫よ。いつもと何も変わらないわ」

「ど、どうして……」


 狼狽える私に、ヴァネッサが急に抱き着いてきた。

「きゃっ!?」

 久しぶりの彼女の体温が愛おしくて、私は思わず彼女の身体を抱きしめる。

 彼女がそっと離れたとき、私の首にネックレスがついているのに気付いた。


「お茶のお返し」

「……!……」

「今日、どうしてもこれを渡したくて。丁寧に作ってたら遅くなっちゃった。寂しい思いをさせてごめん」

 ヴァネッサの手が私の頭を撫でる。

 私は嬉しくなって、もう一度彼女を抱きしめた。

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