人生最大の失敗

尾八原ジュージ

人生最大の失敗

 天井裏から顔を出した不細工な魚がこちらを見ながら笑っている中、私は人生最大の失敗を埋める穴を掘りに森の中の共同墓地へ行きましたが、そこへ行くにはまず神社の中の倉庫の下を通っていかなければならず、そこがとても狭いので大きな道具は持っていけないからシャベルを一つ持っていったのですが、人生最大の失敗はとても大きいので、倉庫の下へ押し込みながらとても不安になりつつも、何とかそこは通り抜け暗くてきらきらした道を通って森の入り口へ着いたところ、不細工な魚が木の上からこちらを見て笑っており、その下を通って森へ入っていくと、どこもかしこも強い風が吹いていて、風に追われた虫が私とすれ違っていきましたが、私は構わず人生最大の失敗を盾にして進んでいきましたが、共同墓地は番人のおばさんがいなくなってしまったのでどこにあるのかよくわからなくなってしまって、それは四年前からずっとそうなのですが、森の外をバスが通り始めたのでおばさんは森を出て行ってしまったのだそうで、そうと知っていた私は特になんとも思いませんでしたが、共同墓地が見つからないのは大変不便で困ったことで、おまけに人生最大の失敗はだんだん重くなり始め、私には持てなくなってしまったので転がしていきましたが、まっすぐ転がっていってくれないので、私はこれがどこへでも転がっていくところへ行ってみようと思ってずっと押して行くと、そうしているうちに共同墓地へ着いたので、これは埋まりたかったのだなどと思いつつ、適当な場所を見つけてシャベルで穴を掘り始めましたが、けっこう掘ったなと思うと他の穴にぶつかってしまって、そこから骨やら布やらが出てくるのでまた新しい穴を掘らなければならず、人生最大の失敗を埋めるほどの大きな穴はなかなか掘れなくて、墓地のあちこちを穴を掘っては埋め掘っては埋めしているうちに森の中が段々暗くなってきて、あちこちで犬の鳴く声が聞こえてきましたが、人生最大の失敗を埋めるまでは家に帰れないと思い穴を掘り続け、しかしやはりどこを掘っても違う穴に当たってしまうのは、墓石が穴に比べて小さいので一見スペースが余っているように見えてしまうからで、本当はみんな埋めたいもの見たくないものを何でも埋めてしまうのだから、共同墓地はまったく敷地が足りず、かと言って共同墓地にしてほしいという土地も他にはなく、皆ここにやってくるしかないということをわかっているので、やはりここに穴を掘り続けるしかなく、中には共同墓地でないところに何かを埋めようとした罰で埋められた人などもいて、私は小さなシャベルを何度かそういう人たちのつま先や頭のてっぺんにぶつけましたが、もう根が張って久しいのでその人たちは全然怒らず不愉快でもなんでもない代わりに、木の上からこちらを見下ろして笑っている不細工な魚には腹が立つので、人生最大の失敗よりも先にあれを見たくないからあれを先に埋めようかと思い始めて私は木に登りましたが、丸い魚はどんどん枝の先の方へ行ってしまうのでシャベルを振り回しながらどんどん追いかけると、魚はここから出てはいけないここから出てはいけないと言って笑いながらどんどん逃げ、魚の笑い声が私の耳の中でひらひらひらひらしてころころ転がりましたが、とうとう枝の先まで追い詰めて手を伸ばしたら、木の枝が折れて私は誰かが途中まで掘ってやめた穴の中へ落ち、その上に不細工な魚が笑いながら枝を揺らして葉っぱを落とすので、空が段々暗くなっていくのを見ながら私は穴から出ようとしましたが葉っぱが積もる方が早く、だんだん空も何も見えなくなって緑色の穴の中へシャベルごと埋まってしまい、埋めるはずだった人生最大の失敗はどうするんだろうどこへ行くんだろうとふと考えましたが、不細工な魚が頭の上で笑っているのを笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うなと藻掻くうちに、埋められに来たのは私だったんだなとその時わかりました。

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