第5話 笑う「門」には「福」来る

「いよいよだね」


「滑ってもいいさ。泣いても笑っても、おれたちの初舞台だ」


福田は、覚悟を決めたようにうなずいた。


おれと福田は舞台の袖で、出演の順番を待っていた。もうあと1分で、今出演中のコーラス部の発表が終わる。


その次は、いよいよおれたちの漫才コンビ「ガリガリアイス」の出番だ。


秋10月。文化祭当日を迎えている。


その後おれと福田は漫才コンビを組み、体育館での発表会に出演申請をした。


結成から出演までわずか一か月。


ネタ作り、ネタ合わせ、全てが未経験のおれたちは、試行錯誤の末、なんとか一つの漫才を作り上げていた。


面白いかどうか、作り上げた自分たちでは皆目見当がつかない。しかし、これ以上推敲しても仕方ないということで、ついに大勢の人の前で披露することにしたのだ。


誰も笑わなかったらどうしよう。そんな不安に支配される。


出番が近づくにつれ、心臓が口から飛び出るかと思うほどに緊張が増していった。


コーラス部の美声が消え、拍手が巻き起こっているのが聞こえる。


「コーラス部の皆さん、ありがとうございました~」


司会者の声が体育館中にこだましたかと思うと、ぞろぞろと10人ほどのコーラス部のメンバーが舞台袖に降りてきた。


みんな一様に笑顔で、発表がうまくいったことをうかがわせる。


おれたちはあと5分後、あんな笑顔を交わせるだろうか…


「宮門」


いつのまにか呼び捨てで呼ぶようになった福田が、おれに笑いかけた。


「組んでくれてありがとね。がんばろ!」


「福田…」


福田の屈託ない笑顔。表裏のない、笑顔。


それを見ておれはハッとした。




そうか、おれ・宮門が笑ったから、福田はおれの元に来たのか…




笑う「門」には「福」来る。




誰が作った諺か知らないが、そういう意味でいいよな?



「おお、がんばろう!」


おれは福田と、手を叩き合った。パン!と乾いた音が、おれの心を高ぶらせる。


さっきまでおれの心を支配していた不安や緊張なんかは、どこへやらだ。


何だか、なんでもできそうなそんな気がした。


「次は、お笑いコンビ・ガリガリアイスの二人によります漫才です。それではどうぞ~!」


司会者の声が体育館内に響き、続いて拍手が沸き起こる。


おれは福田とステージへ躍り出た。


福田は、おれに福をくれた。次は、おれが福田に福を贈る番だ。


冷たいと言われ続けたおれを変えてくれた福田。大事な彼女に、その恩を返そう。



おれは、すうっと大きく息を吸い込んだ。



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笑う「門」には「福」来る ふくろう @mayama0816

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