第五章 ⑦


 それは、どんな表情か。

「馬鹿な、お前」

「ええ、よく言われます」

「本当に、馬鹿なんだな」

 念入りに確認するかのような口調だった。赤マントが茫然と立ち尽くす。肩から、すっかり力が抜けていた。

 どんな理由で?

 どんな理屈で?

「殺そうとした人間と一緒に住もうなんて発想になるんだ?」

 普通はありえない。

 絶対にありえない。

「だからこそ、私なのです」

 リジェッタが嬉しそうに、誇らしげに語った。

「あなたの行動、その全てが嘘だったとは想えません」

 確かに、赤マントはリジェッタを騙すために行動した。だとすれば、怪盗としての働きはなんのためにあったのか。悪人から金を奪い、貧しい人に分け与える行為にどんな意味があったのか。

「あの日も、あなたは真っ先に倒れた騎士見習いへと駆け寄ったでしょう? 誰かを救いたいという気持ちに嘘はないのでしょう? だとすれば、私はそれだけで満足です」

 そうして、リジェッタはようやく振り返った。そこには、最初と変わらずにオルムの姿があった。

「オルムさん。赤マントちゃんを譲ってくださいな。それで、双方手打ちとしましょう。これ以上の損失を、あなたも望んではいないはずですわ」

急な提案に、オルムはピクリとも表情を変えなかった。

 ただ、一言だけ告げた。

 ゆっくりと、右手を上に伸ばして。

「《偽竜》!」

 赤マントが、リジェッタの肩を掴んだ。


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