第五章 ⑤
弾倉に残っていた三発全てを同時に吐き出す。すると、さっきと同じくオルムに当たるよりも先に弾き落とされた。
違ったのは、距離だった。オルムとの距離、目測で約二十メートル強。さっきは直撃する数歩手前で防がれた。今は、ちょうど真ん中頃だった。それはつまり、敵の反応が早かったこと、まだまだ余裕があるという事実に他ならない。
確信した。自分は今、廊下で敵と出会ったのではない。ここはすでに、敵の口の中だ。周囲にはもう、牙が広がっているのだ。すでに間合いの内側なのだ。
リジェッタは敵を見ながらレインシックスの弾倉をスイングアウトした。次弾を纏めたクリップを弾倉の尻に押し込み、一括で装填する。その間、オルムは攻撃せず、距離も詰めようとしなかった。余裕なのか、こちらの様子を観察しているのか。ともかく、下手に動くのは悪手だと戦法を変える。
いったん、レインシックスを腰のホルスターに戻し、背中に右手を伸ばして肉厚の短剣を引き抜いた。
ただ、そのときだった。
「待て!」
その声に、リジェッタは想わず振り返った。まさか、と。
そこに立っていたのは、赤いマントを纏った少女だった。今日は、フードを被っておらず顔が外気にさらされている。
見間違えるはずがなかった。
「赤マントちゃん……」
事態が上手く飲み込めず、リジェッタが動揺していると赤マントが、フェンリル騎士団の騎士見習いであるマリールが、オルムへ向かって声を張り上げた。
「お前達に用があるのは私だ。《偽竜》は関係ない! 責任は、この私一人が取る!」
そう言って、マリールがリジェッタよりも前に立った。オルムへと、真っ向から堂々と対峙する。
「すまん《偽竜》」
弱々しい声だった。
「お前はジャックス様にとって必要なのだ。ここで失うわけにはいかない。だから、私が全てを終らせる」
「いけません、赤マントちゃん。それだけは」
しかし、敵は悠長に話させてくれるほど優しくはなかった。
「どちらかを選ぶんだ《偽竜》」
オルムが右手を頭上高々とかかげた。
そして、真っ直ぐに振り下ろす。
それはあきらかに〝攻撃〟だった。眼前には赤マントが立っている。このまま黙っていればマリールの命がない。
リジェッタは一歩前に踏み込んだ。
「だから私は――ッ!」
偽りの竜が叫んだ。
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