第四章 ⑦
夕暮れになると、住民達の姿も消えていた。修道女達が後片付けをしたり、自分達の食事を始めたりしている。
「《偽竜》も食べていくだろう?」
「この骨、香ばしくて滅茶苦茶美味です」
近くの修道女が腰を抜かした。成人男性の足よりも太い丸焼き豚の大腿骨を、ビスケット感覚で噛み砕く人間がいるとは想いもしなかったからだ。
別の修道女が駆け寄り、仲間の肩を支えた。
その光景に、リジェッタはベンチから腰を上げた。
「あら」
仲間を助けた側の修道女と目が合った。すると、修道女が肩を震わした。音で表すなら『ギクリ』と。
「赤マントちゃんですね?」
「ひ、人違いですー」
「うふふふ。その服、可愛いですよ」
「誰が可愛いだ! ……あっ」
「そういうところが、とても愛らしいです」
「やめろ、近付くな《偽竜》。ちょ、顔を近付けるな! 頬擦りするな! 頭を撫でるなぁああああああ!!」
「なんだ、知り合いだったか」
ジャックスが微笑ましそうに言った。
赤マントが、顔を蒼白に変えた。
「とんでもございません団長殿! 私はけっして、こいつなんかと知り合いでもなんでもありません。だから離れろ。だから、ふががっがががっががが!? 乳房を押し付けるな! 息が出来ん。私を窒息死させる気か!? お前、自分の胸を凶器かなにかと勘違いしているのか!」
「おーよしよし。泣かずとも大丈夫ですよ。私はここにいますからねー」
「母親面をするな! お前、私の親でもなんでもないだろう!」
赤マントがなんとかリジェッタを押し退けた。息が荒く、肩を上下させている。
「マリール。丁度良いから《偽竜》の相手をするである。我は、ちょっと用事を想い出した」
そういうと、ジャックスはそそくさとその場を立ち去ったしまった。マリールと呼ばれた少女は、顔を絶望で染めた。
そんなマリールの肩を、リジェッタが優しく抱いた。
「うふふふ。淑女らしく、優雅で知的な会話をして楽しみましょう。ところで、デザートにカスタードプティングがあると嬉しいのですが。チェリーが乗っていると、なおありがたいことでございます」
「お前、数秒前のことも記憶出来んほど脳味噌に穴でも開いているのか? その穴、道徳と遠慮の二つで埋めてやりたいよ」
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