リキとの出会い(フェイバー・ディバイン視点)



冒険者が嫌いだ。


普段は俺らのおかげで安全なんだぞといわんばかりに偉そうにしてるくせに大災害では一部を除いて役に立たない。

もちろん大災害に立ち向かったが力及ばずに命を落としてしまった人を貶めたいわけじゃない。むしろ大災害に立ち向かっていくことの出来る人たちは強さに関係なく尊敬する。そういう人たちは普段から無駄に偉そうな態度をとらないし。


私が嫌いなのは普段偉そうにしてるくせにたいした努力もしないで酒ばっか飲んで、大災害のときは戦おうとすらしないやつのことだ。


冒険者ギルドは昔の勇者様が大災害のために作ったものだったはずなのに、それを許してるギルドそのものも好きではない。


そして、ギルドが使えないからって大災害のたびに勇者召喚をする国もムカつく。


ギルドがないと私たちが困るのはわかっているし、国が対処しないと大災害を乗り越えられないこともわかってる。


それでも思ってしまう。


ギルドがもっとちゃんとしてれば勇者召喚なんかしなくても大災害を乗り越えられるんではないのか。勇者召喚をしなければ冒険者が死にものぐるいで努力するんではないか。


そして、冒険者だけで大災害を乗り越えられていれば、私の両親は死なずに済んだのではないかと。





今日は勇者召喚の日だから、おばあちゃんは店を閉めて王城に行っている。そのため1人で家にいるからかいろいろ思い出して、どこにもぶつけることのできない思いを頭の中で反芻してしまってイライラする。



召喚した勇者様をレベルアップさせるためには魔物の討伐が必須になる。そのため、いろんな薬が大量に必要だから、専属扱いを受けている調合師は10日ほど前から城に呼ばれて朝から夜まで薬を作っているらしい。

おばあちゃんは調合師として薬の調合のみを極めたらしく、調合師のジョブのレベルが上限に達したときに現れた薬膳師にジョブを変えている。他にも正確には調合師ではなく、上位ジョブの人もいるらしいけど、それらを全部まとめて専属調合師として呼ばれている。


そこそこいい稼ぎにはなるらしいけど、さすがにおばあちゃんの歳では朝から夜まで薬を作り続けるのは辛いだろう。


私がもう2月ほど早く産まれていれば代わってあげられたんだけどね。さすがにおばあちゃんほどの薬は作れないけど、高品質くらいなら作れるし。


それよりもお母さんがまだ生きていれば、おばあちゃんが無理をしなくても平気だったのにね。




私は両親が30歳を超えてから産まれた子どもだ。おばあちゃんがお母さんを18歳のときに産んだことを考えてもだいぶ遅い出産だったみたいだけど、私もお母さんも健康に問題はなかったらしい。なにせお母さんは私を産んで10日もしないうちに勇者たちと一緒に旅立ったらしいからね。


そして帰ってこなかった。


お父さんはお母さんが私を身ごもったことが発覚したときに先に勇者たちとの大災害の対処で命を落としている。


だから私には両親の記憶が全くない。気づいた時からおばあちゃんに育てられてたし、同年代の友だちがいなかったから小さい頃はそれを不思議とも思わなかった。


お父さんとお母さんのことを知らされたときは私がそれなりに精神的に成長してからだったし、そもそもいなくても支障がなく、幸せな暮らしを出来ていたから全く取り乱すことはなかった。むしろそのときに正しく理解出来ていたかも怪しい。ただ、おばあちゃんが泣きながら何度も謝っている姿を見て、これは悲しいことなんだと思ったことを覚えている。


私から両親を奪っておばあちゃんを悲しませた原因は魔王だ。


お母さんが私を身ごもる前にカゲロアのとある村に現れた魔王が村を占拠したらしく、最初にカゲロアの騎士と冒険者が討伐に向かったが全滅。

次に被害を受ける可能性が高かったガンザーラの宮廷魔導師が村ごと焼き尽くそうとして失敗し、返り討ちにあって大損害を受けた。


そこで、次に被害を受ける可能性が高いクローノストとアラフミナが協力して討伐をすることとなり、討伐隊の募集が行われた。これは冒険者を強制的には戦わせることができないからっていうのと騎士が国から全ていなくなるのは問題もあるため、人が全く足りないからだ。


そしてそれに応募をしたのが両親だ。

2人とも元冒険者で、それなりに戦えたから、前線に立てなくても何かしら役に立つことは出来るはずだ。国のために戦うんだとやる気だったらしい。


ただ、魔王退治に向かう日が近づいてきたときにお母さんが私を身ごもっていることが発覚し、お父さんだけで行くことになった。


「子どもが産まれたら俺の武勇伝を聞かせてあげたいから頑張ってくるよ。」


これがおばあちゃんが最後に聞いたお父さんの言葉だったらしい。


重い空気で帰ってきた勇者一行の中にお父さんはいなかった。




そして私が産まれる少し前、勇者が鍛え直して再度魔王に挑むため、また公募された。


お母さんは私が産まれる寸前だったにもかかわらずそれに応募し、私が産まれて8日後には「ヴァントの仇を取ってくる。」という書き置きだけ残していなくなったらしい。


そしてお母さんも帰ってこなかった。


ただ、魔王の討伐は達成したようだから、お父さんの仇は取れたのかもしれない。





いや、何を思い出してるんだろう。


今日はやる気が出なくて調合の練習もせずにゴロゴロしてて暇だったからか、余計なことを考えて、さらに気分が落ちてきた。


明日からおばあちゃんは店を再開するだろうし、掃除や補充をしておいてあげようかな。暇だし。


おばあちゃんが城で働いている間は基本的にお店は閉めてある。

営業するかの判断は任されているから、私の気分が乗ったときだけお店を開けている。

一昨日はなんとなくやる気が出たから店を開けたら思いのほか売れた。だから今は棚がスカスカだ。

営業するなら補充もしなきゃだし、昨日はお店の扉すら開けてないから匂いがこもってるだろうから換気しなきゃなんだよね…さすがにここ10日間でお疲れのおばあちゃんに明日の朝から補充や掃除をさせるのは気が引ける。


よし、お昼ご飯食べたらやろう。






お昼ご飯を食べ終えて、とりあえずは店の換気のためにドアを開けて、軽く掃除をした。


ハタキで埃を落とした後は箒で床をはいてドアから外に追い出した。わざわざ集めて捨てるの面倒だからね。埃だけだったから大丈夫。


疲れたからカウンターの椅子に座ってしばらくしたら、埃や薬草の匂いがあまりしなくなってきたから扉を閉めた。ずっといたから鼻が馬鹿になっただけかもしれないけど。


あとは補充だけだな。


予備を取りにカウンターの奥に入ったら、お店の扉が開く音がした。


…鍵閉め忘れた。


いや、でも閉店の札はあるはずだ。もしかしておばあちゃんが帰ってきたのかな?


カウンターから顔を出すと冒険者っぽい男だった。わざわざマジックバックを持っているところを見るに初心者かな?

でも顔つきは初心者っぽくないから特殊なジョブについてるとか?


いやいや、重要なのはそこじゃなかった。なんで閉店って書いてあんのに普通に入ってきてんの?字が読めないの?ならなんでわざわざ薬屋に来たの?


あー、本当に冒険者は嫌いだ。


今朝思い出したこともあってか、凄くイライラする。


腹いせにぼったくってやろう。


馬鹿な冒険者の男が好きそうな女を演じておけばバレても間違えましたで大丈夫だろうしね。

一応前髪は下ろして顔を隠しておこう。外で何かされたら嫌だし。


「いらっしゃいませ〜。」


少し間の抜けた声で挨拶をしたら睨まれた。

え?怖いんだけど。この喋り方は好みじゃなかった?


「冒険に最低限必要そうな薬と薬草の本があったら欲しい。本は絵付きのがあれば絵付きにして欲しい。」


あれ?怒ってるわけじゃない?もしかして目つきが悪いだけ?


というか、やっぱり新人冒険者なんだね。なんでギルドで買わないんだろ?馬鹿なのかな?馬鹿なんだな。


字が読めないことは仕方がないと思う。

平民じゃ学校なんて行けないし、親が字を読み書きできなきゃ教わること自体が出来ない。

だから貴族でも商人でもない親のもとに産まれた子どもはほとんど文字の読み書きなんてできないだろう。

だから字が読めないことを馬鹿にするつもりはない。


だけど、冒険者ギルドに登録してるならギルドで買った方が安いのにわざわざ薬屋に来るのは馬鹿でしょ。

文字が読めなきゃ商品を探すこともまともに出来ないってわかってるだろうに金額的にも高くつく薬屋にわざわざ来るんだから馬鹿としか思えない。


仮に品質の高い薬を買うためなら仕方がないけど、冒険者に最低限必要な薬とかなおさらギルドに相談しながら買えばいいじゃん。


あー、イライラする。


もしかして閉店だって知ってて入って来た?


だとしたら意味がわからない。


それでも私が用意した薬じゃ足りなかったせいで死なれたら気分が悪いから、ちゃんと選ぶけどさ。金は多めにとるつもりだけど。


「冒険者さんが必要なものですね〜。」


そういやまだ商品の補充してなかったな。

でも初心者冒険者が最低限必要な薬ならありそうだ。


あれもこれもと選んでからカウンターに全て置いた。


「まずはポーションと塗り薬ですね~。ポーションの品質は普通で十分だと思います~。ポーションは~戦闘中の外傷や全身の外傷の回復には適していますが~1度に全量飲まなければ効果が薄くなっちゃうので~1本で1回分なんです~。それにたいして塗り薬は~ポーションほどの即効性はありませんが~怪我にたいして適量塗るだけなので~1つあれば何度か使えるんですよ~。だから塗り薬は高品質がオススメですね~。あとは~どんな魔物と戦うかによりますが~毒消しと麻痺を治す薬はあった方がいいと思います~。お金があるなら万能薬にするのが楽ですけど~。初めは毒消しと抗麻痺丸だけで十分かと思います~。この2つは念のため高品質で揃えるべきですね~。どちらも命にかかわるので~。品質普通で完治しないほどの敵に会ったら終わりですからね~。高品質で治らないほどの敵だったら~そもそも万全の状態だろうが~なったばかりの冒険者さんじゃ逃げることすら出来ませんから~高品質で十分かと思います~。それと薬草の絵が付いた図鑑はこちらです~。」


この喋り方疲れる…。


あとで使い方がわかんなかったとかこれは必要なかったとか文句をいわれたら嫌だったから細かく説明したけど、そのせいで説明が長くて疲れたよ。


でもあとは会計だけだから頑張ろう。


「全部でいくらだ?」


いくらにしようかな。

本当は銀貨4枚と銅貨70枚なんだけど、切りよく銀貨10枚でいいか。


「えっと〜。全部で銀貨10枚です〜。」


冒険者はお金を払おうとしたのに急に止まった。


もしかしてバレた?

さすがに倍額はやりすぎたかな。


「会計の内訳を教えてくれないか?」


「チッ。」


「は?」


ついつい舌打ちをしてしまった。

だって字を読めないのに計算ができるとは思わないじゃん。いや、もしかしたらちょっと違和感があったから聞いただけで、計算ができるとは限らないのか。


「えっと~品質普通のポーションが~1本銅貨20枚で5本と~高品質の塗り薬が~大きめサイズで1つ銅貨30枚で~高品質の毒消し丸が~1つ銅貨50枚で3つと~高品質の抗麻痺丸が~1つ銅貨30枚で3つと~絵付きの薬草図鑑が~銀貨1枚なので~合計銀貨10枚です~。」


「ボッタクリじゃねぇか!」


「ビックリするので〜大声はやめてくださ〜い。」


「ちゃんと計算しろよ!合計銀貨4枚と銅貨70枚だろ⁉︎」


え?字が読めないのになんでそんなに早く計算できるの?しかも暗算で。


「えっと〜。う〜んと〜。本当ですね〜。計算間違えてました〜。ごめんなさ〜い。」


計算するふりをしながら、やっぱり字を読めたうえでの冷やかしだと理解した。


それだけの計算ができるのに字の読み書きが出来ないわけがないからね。


本当に冒険者は嫌いだ。


「ってか演技かよ!」


え?確認ではなくて、今確認したうえでの発言のように聞こえたけど、気のせい?


「え〜。何いってるのかわかんないし〜。」


「嘘ついてんのはバレてんだよ。まぁちゃんとしたの売ってくれりゃもういいわ。」


そういってお金を払ってきたから、お釣りを返した。

というか怒らないんだ。冒険者にしては珍しい。


「あーあ。冒険者のくせにわざわざ薬屋で薬を買う馬鹿だから騙されてくれると思ったのに、算術出来るなんて予想外だったな〜。」


怒られないことに安堵してしまったからか、本音が漏れてしまった。

ヤバいと思って冒険者の顔を見ると怒りではなく呆れた顔をしていた。


「というか客に向かってその態度はないだろう。」


「だって私は店員じゃないし。」


「は?」


「ここはおばあちゃんの店だけど、今出かけてるから店を閉めてたのに、閉店の看板を無視して入ってきたやつがいるから、文字が読めない馬鹿ならぼったくってやろうと思ってさ。」


あ、これだと文字が読めないことを馬鹿にするいい方になっちゃった。

…まぁ冒険者相手ならべつにいいか。


「それはすまんかったな。でもボッタクリはやめとけ。いつか痛い目見るぞ。」


ふーん。素直に謝れるんだ。しかもこっちの心配までしてくるなんて、変わってるね。


意外な対応をされたせいでちょっと騙そうとして悪いなと思い始めてしまった。


「心配どーも。騙そうとしたお詫びに1つアドバイスをしてあげるね。迷宮に入るときは抗麻痺丸は口に含んだままにしておくのをオススメするよ。うちのはコーティングしてあるから唾液じゃ溶けないし、麻痺になったらすぐに噛み砕けばほぼノータイムで復活できるから。あとは麻痺を使ってくる強敵と戦うときは飲んでおいた方が良いよ。麻痺になる前に飲むと効果は薄まるけど、しばらくの間は麻痺になっても完全に動けなくなるのに時間がかかるようになるから、その間に別の抗麻痺丸を齧れば治せるから。」


これで騙したことはチャラだね。


「あんがと。あと、質問なんだが、薬草でも食べれば効果はあるのか?」


「あるにはあるけど、必要量を食べるのはけっこう辛いよ?」


「そうか。いろいろありがと。じゃあな。」


「ご武運を〜。」


冒険者が出ていったあと、他の客が入ってこないように鍵を閉めた。


それにしても変わったやつだったな。


お人好しって感じではないし、戦闘狂やクズともなんか違ったな。


しかもあいつとの会話をちょっと楽しかったと思ってしまってる自分がなんか嫌だ。


冒険者のくせに普通の対応してくるなんて…。




あー………。





…冒険者が嫌いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る