宇宙(そら)と星と黒い穴

――まあ、何となく。

僕は、旅に出た時からこうなるんじゃないかと思っていたよ。

――本当に、何となくだけど。



ウィ―ム、ウィ―ム。警報音。

『Warning,Warning、ぶっちゃけこれもう無理っすご主人』


僕の宇宙船、本人が言うには『この宇宙でたった一つの超スーパーすげえどすばいな宇宙船、この私!』とか宣っていた本人が今真っ先に諦めやがった。


「そんなこと言わんともうちょい頑張ってよ」

みしみしみしみし…船体が軋みを上げてる。


「今絶賛ブラックホールに向かって吸い込まれてる最中なんだしさ」

『アイムソーリー、ヒゲソーリー、無理なものは無理ですご主人』


そう。今まさに僕とこのふざけた言動の宇宙船女性型AI…名前は『忘れちまったッス!』とか言っていたので適当に「お前」とか「バカ」とかで呼んでた…が言い争っている最中も一度捕まれば二度と逃げられないであろうブラックホールに向かって引きずり込まれているのであった。


『実際問題エンジンの出力が上がんねえッス無理っす無理っす、ほぼガラクタ状態で廃棄されてた宇宙船に無茶言わんでほしいっす』

ガクガクガクガクぼがんぼがん。確かに4つのエンジンのうち右ふたつあたりが滅茶苦茶振動してきている。限界が来るのも近かかろう。

「お前僕が拾った時の言動思い返そうな?せめて最後まで言い張れよ」


ドガーン。


『あ、今完全に右エンジンが死んだッス』

「ありゃー」


エンジンが死んだことによりどんどん引きずり込まれる僕ら。

「…というかさ、最期だから聞くけどさ」

『はいっす?』


「お前さ、本当はこのブラックホールに気づいてたよね?」

画面に映っているアバター(やたら顔がいい、胸はぺったんこだが)に対してにらみつける。

『…ぎくりっす』

「ああ、別に答えなくていいよ。理由とかも分かってるから」


どっこいしょ。と言わんばかりに画面横に座る。

どがんどがん。誘爆とかがすごいことになってきた。


「大方この前の仕事で大金入ったからこれで新品の宇宙船飼われて私お役御免、それならいっそ心中を」

『ぎくぎくぎくり』滅茶苦茶図星でございと言う顔。

「なんてわかりやすいやっちゃ…」


どごごんどごごん。バキバキバキ。

爆発は逆に少なくなり、全体的に圧潰してきた。


「んーまあいいけどね」

『ほへ?』

「勘違いされたまま死なれるのもやだし、言っておくけど」「僕はお前の改造費のために稼いだんだからね」

めきめき。

『ファッ!?完全に早とちりの勘違いっす!?』

「うん」

『ファーッ!』

あーなんか暗くなってきた。

「まあでも、オマエと一緒に死ぬならまあ、悪くはないよってことだけ」

『ファーッ!もはや告白!』

「うん」

どんどん暗くなって重力が多く…

『もうおいら死んでもいいっす!』

「今まさに死んでる最中だけどね」


――その日、ひとつの宇宙船がこの世界から消えた。



「…なあ、知ってる?ブラックホールはまだ解明されきってなくて」

「ホワイトホールとか言われている、他の世界に対しての出口があるとか言うトンデモ理論もあるらしいよ」

『…なんにせよ、まだ生きてるッス?おいらたち』

「あるいは、死後の世界じゃないかな」

『何でもいいっす!まだ一緒にいられるならイイっす!』


――そして、他の世界に一つの宇宙船が生まれた。







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