元・相棒と私

私が後ろ。後ろから撃つ。

アイツが前。前に行っては切り刻む。

私たちは最強のコンビだった。

…”だった”。



「…やっと、見つけたよ、前司」

私は、そうアイツに呼びかける。

瓦礫の山の上に立つアイツに。


「…その名前は女の子らしくないから呼ばないでほしいなあ、後子」

憮然とした顔で前司は答える。

もちろんそんなことは知っている。ただの嫌がらせだ。

――私を裏切った元・相棒への。


「それで、理由ぐらいは、教えてもらえると嬉しいんだけど」

腰から二丁の拳銃を持ち出す。

いつもはスナイパーライフルを使っていたが、前がいないんじゃそうもいかない。

長物は全部置いてきた、あるのは取り回しの良い銃器ばっかりだ。

――銃器以外もたくさんあるけど。


「まあ、僕としても教えてあげても…いいといえばいいんだけど」

対する前司は、一本の刀を抜く。

たくさんの、たくさんのものを使う私とは違う。

――いつもいつも、アイツはあの一振りの刀だけですべてを切り裂いてきた。

――私なんかとは物が違う。


「戦いが終わって、君が生きてたら聞けるんじゃないの、と言っておいた方がいいかな?」

いつも通りの軽口、本当にきざな奴だ。どうにもやる気らしい。


「抜かしなさい、一人で私が戦えないと思ってんの?」

確認。

拳銃が二と十。

手榴弾五、フラッシュバン五。

チャフグレネードはない。意味がないからだ。

遠隔砲撃要請用無線、感度良好。

既にこの位置に敷き詰めてある(この場所は幾つもある候補の一つだった。)クレイモア起爆用リモコン、動作問題なし。

強化外骨格のブースター、出力安定。

右手の義手に仕込んである重力波発生装置。

技術部から最新鋭の試作品をかっぱらってきた。動くかは知らない。

左手側、超高出力レーザー発生装置。

こちらは試作品未満だ。テストすらしていない。

これを使う機会が来ないといいけど、たぶん来る。

右足、左足。高速戦闘軌道専用反重力発生装置。

これもまた試作品。行けるかどうかは試してみないとわからない。

でもこれぐらい無いとアイツには追いつけない。

それとは別に物理反動発生装置。平たく言えばスプリングみたいなものだ。

こういう時には物理が一番だ。足が折れるとか言われたけど、何とかする。

両方の靴、高熱溶断ナイフ、しっかり動く。

――腰につけた、アイツにプレゼントしてもらった短刀。

むやみやたらと良いものだ。アイツは刀の目利きが滅茶苦茶上手い。

――髪を止める簪、これもアイツに選んでもらった。

やたらセンスがあるのが腹立たしい。もちろん武器にもなる。

よし、全部ある。


これで、勝ち目はおおよそ二割弱。

これでもかなり甘めに見積もっている。


「…行くよ、前司」

「うん、来て、後子」


それでも、私は、行くと決めたのだ。

この相棒を、殺すと決めたのだ。

そして私は、戦場へと飛び込んだ。



雨の音が聞こえる。いつの間にか降りだしていたらしい。


「…さすが、後子はここぞってときには本当に強いんだから…」

「こんな時でも軽口はやめないんだから筋金入りね、ホント」


短刀を突き付けている右手の排熱に丁度いい冷たさだ。

私の四肢はそこ以外は最早ないが。重力波ももちろん出せやしないが。

後はこれを振るだけですべて終わるから問題ない。


「…それで、何で私を裏切ったのか、答えて」


排熱が終わるまで10秒弱。終わるまで右手は動かないか…

その間の、最期の質問ぐらいは許されるだろう。

残り8秒。


「んー…そうだねえ、ゲホッ」


7,6。


「あー、まあ簡単に言うとね、ゲボッ…」


…5、4、3――


…おかしい、こんなに血を吐くようなダメージは通っていないはず…


「僕、不治の病ってやつでさ、グッ…」


――2,1。


「…殺してもらうなら、君に、殺してもらいたかったのさ僕は」

「ありがとね、感謝してる」


0。



「…ねえ、この仕打ちはあんまりじゃないかな後子」

「うっさいバカ黙れ死ね、いや死ぬな」

「僕は殺してって頼んだんだけど」

「うっっっさい、絶対に死なせてなんてやらないから、一生私のそばにいさせてやるんだから」

「…ははは、後子らしいよ、本当に眩しいなあ」

「さて、技術部にカチコンでサイボーグの技術を分捕ってこよう」

「ヘイ、後子ストップストップ。」

「うっさい、機械の体になるぐらいへでもないでしょ、私もこの機会に全身しようかしら」

「そうでなく、そうでなくね?カチコム前に普通にね?」

「ああ、普通に情報収集からってことね」

「ヘイ、後子。そうじゃなくてね?」



「めでたし、めでたし…」

「それがロボのおばあちゃんたちの馴れ初めなのー?」

「そうよ、後ロボじゃなくサイボーグね」

「そこはあまり問題じゃないんじゃないかな、いいけど」







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