建てろ! 異世界建築株式会社 !!

牛☆大権現

第1話

「やった! これで水不足が解消される! 」


山奥に、一つのダムが建設された。

この世界で、初めての近代的なダムだ。

これが、建設されるまでの経緯を、これからお話ししよう。




「もしもし、もしもし!……くそ!! 」


身なりの良い男が、携帯を地面に叩きつける。

どこにも、繋がらなくなったからだ。


「おふくろ! よしえ! 頼むから、誰か繋がってくれぇ……」


その男だけではなかった。

あちこちで、電話を必死にかけようとする光景があった。

妻の名を、家族の名を呼び掛けて。

一人ずつ、糸が切れたように、電話を取り落として。

オフィスの椅子に、壊れた人形のように座り込む。



彼らがこうなったのには、ちゃんと訳がある。

オフィスの窓の外を、見て欲しい。

そこは、明らかに日本ではない。

見たことのない動物や、植物が覆い繁り。

空には太陽が、2つもある。

この状況下では、パニックになるな、というのは無理があるだろう。



「異界の方よ、私の言葉が分かるなら、どうかこの扉を開けて欲しい」


扉の外から、流暢な日本語らしき声が聞こえる。

社長は、背筋を正して、扉に向かった。


「招き入れて頂き、ありがとうございます。そして、大層混乱していらっしゃる事でしょうが、それは私達に非があることです、お許しください」


招き入れられた老人は、深々と頭を下げた。


「許すも許さないも、そちらの話次第だ。まずは、説明してもらいたい」


社長は、襟を正して、応接用の椅子に腰かけた。

そして、社員を手招きして、老人をソファまで誘導する。


「おお、軟らかい!……いえ、失敬。まず説明でしたな。端的に言えば、我々があなた方を召喚させて頂きました」


「それは、一体何のために? 」


「津波で、隣街への街道が寸断されました。それを復旧可能な人員が必要だったのです」


「建築の仕事を行う人は、ここにはいないのですか? 」


「建築ギルドは、津波で壊滅しました。人員が足りません」


社長は、必要な事を、淡々と質問していく。

そうしなければ、現実を受け止めきれないからだ。


「……我々がそれをしたとして、あなた方に報酬は払えるのですか? 」


「我々からは、街の共有財産を。道が復旧すれば、領主からも頂ける筈です」


社長は、唸っていたが、オフィス内を見回す。


「てめぇら、訳が分からん案件だが、やってくれるか? 」


社員達は、大きく頷いた。




「重機をいれるには、地盤が柔すぎる! 」


「現場でセメント作って、なるべく固めてみるしかねぇな」





「街の奴等が、会社に入れて欲しいって懇願してます」


「空き区画を使わせてやれ! 」





「街道復旧、完了! 」


「「「っしゃあああ!! 」」」





「私がここの領主、ヘカテリーナ=ロロッチだ。まずは、復旧への尽力感謝する」


「『株式会社 真田建築』代表、真田 佑馬です。お招き頂き、ありがとうございます。」


社長は、領主の城に招かれていた。


「この世界の作法を知らぬ身ゆえ、ご無礼があるかもしれませんが、ご容赦を」


「多少ならば、許そう。ロロッチ家の者は、それほど狭量ではない」


ヘカテリーナは、煌びやかな扇で口元を隠す。


「貴様らへの褒美だが、こちらの通貨では価値が合わん。宝石や貴金属で良いか? 」


「お心遣い、感謝します。勿論、異存はございません」


「結構。それから、腕の良い魔術師を10人ほど送り込む。制限はあるが、お主らの世界への扉を作れる」


「なんですって!……失礼、ご無礼をいたしました」


「よい。望郷の想いは、私にも想像出来る」


「ありがとう、ございます! 」


社長の目から、涙が溢れていた。


「迷惑をかけたが。可能なら、今後もよき取引相手となって欲しい。貴様らの技能は、この世界には存在しない、唯一無二の物だ」


「……部下達と、相談させてください」



「急ぎはせぬ、気長に待つ」


領主は、スカートの裾をつまんで、応接間を退場する。



ここから、異世界との正式な交流が始まった。

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建てろ! 異世界建築株式会社 !! 牛☆大権現 @gyustar1997

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