第9話 緊急原作会議(結〜作者の本音を添えて〜)

柑菜瀬さんの機嫌をなんとか取り戻したところで核心を切り出す。


「で、なにしに来たのさ?」


この一言で部屋の気温は氷点下へ急降下!いや、最初は可憐にスルーされたからノーカンにして、一回目ということにしておこう。別にどっちでもいいや、場の空気が最悪になったことだけははっきりわかったし。


「え、なにこの空気感…。俺、そんなにおかしなこと口走った覚えなんてないんですけど?」


口に出して思ったけど、こんなこと言うのって鈍感系だけじゃね?


だが安心して欲しい!


そんな感じの下りは今までにも繰り返してきた上級者の俺としては、もはや次に来る反応も予想できる!ここまで来るのに長い道のりだった…


「「……ッチ。少し黙ってて鈍感」」


はい、いただきましたぁぁぁっっっ‼︎ ありがとうございましゅ‼︎【注:Mではございません】


愛しの○ガイルの○ッキー先生の部室での気持ちが心からわかった気がした。いやマジで最終巻て聞いたときの衝撃ときたらもう、ハサミで自分の太ももを刺す少女が現れた描写を見た時並みだったなぁ。邪魔されて、まだ読めてないけど。



「ところで、お前らキャラ崩壊が起こってないか?それほどまでに怒りの琴線に触れることだったとは…。それならそれで先に言って欲しかったわ」


これはボケのない率直な気持ち。にもかかわらずしばらくの奇妙な間ができる。なにこれ、嘘偽りのない清らかな気持ちを単刀直入に伝えると伝えたで、こんな雰囲気になるとかどうすればよかったんだよ…。だれか教えてくれ‼︎ そんなに経験豊富な友達はいないけど‼︎



「翔人、まさかここまで恋愛センサーが鈍化していたなんて…。わたし、悲しいっ‼︎」


「ほんとだよっ!こういうとこを見ると、なんでこいつに…その……したのかホントに不思議で仕方がないのよね…」


こいつら、こんなに誤解を生みそうな言い回しをして恥ずかしくないのか!


「なんだお前ら。まさか俺に惚れたのか〜?…いや、俺の幻想だろうな。はは…あれっ、なんで涙が出てくるんだろ…?」


「「……ッ⁉︎そ、そうだよ!なんでそんな妄想を抱いてるのっ⁉︎いい加減にしないとその幻想をブチ殺すよ(にゃ)‼︎ 」」


「わ、わかってるから!いちいち現実を叩きつけて心を折りにくるのはやめてください、お願いします‼︎」


思春期高校生にとってはかなり残酷な現実を嫌が応にも教えられると、誰でもショゲるわ!特に女子の言葉に対して免疫のないBTボッチにとってはクリティカル‼︎ 意外とこの気持ちをわかってくれる人は多いと思いま〜す!


その一方で女子2人は2人で、さすがに言いすぎたことに気がついてこの後の慰め方を必死に考えていた。


それぞれがそれぞれの世界にのめり込む姿は、側から見たらカオス以外の何物でもなかった−−−


と言っても、ここ俺の家だから第三者の目は1つもないからいいんだけどね☆






=====






結論から言おう。


先のカオス劇場は無かったことになった。理由は簡単……上手く収める文言が思いつきませんでした‼︎


そういうわけで時間軸を戻そうではないか。……いや、時間軸は変わってねーわ。


「で、結局なんなのさ。もしかして言えない理由?それなら無理に聞こうとは思わないけど」


ようやく真面目に話してくれるようになったようで、こちらに向き直る。なんか告白(別の意味で)されるみたいで緊張するねっ!そんなことないとわかってるけど。



「コホン…えーっと、ここに来た理由だったよね。それはねぇ、翔人君が今にも自殺しそうな顔をして帰ったのを見て心配になったからなの」


「そ〜だよ翔人ぉ!本気で心配したからここまで追いかけてきたんだにゃ‼︎」


うぅ…俺のためにそこまでしてくれる関係がまだあったなんて…翔人、嬉しい‼︎


だがここで終わらないのが平生クオリティー。今この場で言うべきではなかった、とのちに後悔する疑問を吐露する。素直であることはいいことだ!


「そんなに急いでいたなら俺、今までで一番嬉しいけど…その割には2人とも、髪乱れてないな。ホントに焦ってたのか?」


「……それ、知りたい?例え後悔することになったとしても??」


それ、そこまで危険なことなの?肌にピリピリ来てるんですけどマジですか…。そっちがそう来るならこっちも逝かせてもらおうじゃないか!


「いやそこまで知りたいわけじゃないから別にいいや。それに今すぐにでもラノベを読みたいし。それじゃあ用がないならサヨウナラ〜」


反撃成功!見事に2人に刺さったようでプルプル震えていた。ついでに目はウルウル、肌はハリハリしている。あっ、これは怒らせたやつだ。


「そこは聞きたいっていいにゃさいよぉ‼︎ あと勝手に帰らそうとするにゃあ‼︎」


「命を捨ててまで聞くほど価値があるとは思わない!断固として拒否する‼︎ そして本が早く読みたいからお帰りください。ちなみに何故頑なに帰りたくないのかそこのところ詳しく‼︎」


「ぐっ…まさか鋭感がここでも発揮するなんて!」


「こうなったら最終手段に出るしかないねっ!」


最近といっても数時間?数日?どれだけ時間が経ったかわからないが、まぁ時間がそれほど経っていないにも関わらず仲良くなった2人。何気なくスルーしたがお互いにニックネームで呼び合ってるし。


そして“目を合わせる”が流行っているようだ。ただこの仕草は今まで俺にとっては悪いことが降りかかる目印になっているのだが…


「「緊急原作者会議を続けます‼︎」」


「おぉっっっーーー、ついにやる気になったのか!俺は嬉しいぞぉ‼︎ って、今更?もうその話題流行すぎたからいいよ。それより本を読みたいからさっさとお帰りいただきたい所存です」


「もう…何度も言わせないでよ。この場で反対してるのは1人。これどういう意味か…わかるよね?」


「あ、はい。じゃあお二人でどーぞやっててください。部屋の隅っこで本読んでるんで。…いやそもそも俺の部屋でやらなくっってよくないですかね?あと騒がしいから帰っていただきたい」


「じゃあ翔人君の合意も得られたところで…はっじめまーす!」


「少しは話を聞けやコラ。どれだけ足掻いたとしても、たかが登場人物にそんな権力はないことくらい賢い2人にはわかるだろ」


「ふっふっふ…そんなこともあろうかと用意しました、この携帯番号‼︎ この名前は誰だと思う?」


「その番号、名前…まさか⁉︎……うん知らないね」


「今の話の流れでそのセリフはないでしょ…。いや、翔人らしいと言えばらしいんだけどさぁ」


知らないものを知らないと言ってなにが悪いのだろうか。むしろ学校の底辺に所属する身としては登録した連絡先が少なすぎて全員のIDを覚えているまである。


「それで、それは誰のものなんですか?」


「よくぞ聞いてくれました!これは、何と、中の人の連絡先なのだ‼︎ あれ?これは一緒にごうだ…もとい交換してもらったのになんですーちゃんが聞いてくるの?」


「あぁ……あれってそういうことだったんだね」


最近のJKは闇が深いみたいですね。ここは触れないでおきましょうか。そのほうが命を捨てないで済みそうですし。


「なん…だと。ここ小説の世界ファントムワールドなのに何でいるんだよ⁉︎」


「えーっと、私はよくわからないんだけど、それってイレギュラーなの?」


「俺は異世界ものとか恋愛系とかをよく読むけど、あんま見たことない。というか普通はそんな人は出てこないから」


こんなことは本の世界では当たり前なのだから、この子は普段から本は全く読まないのだろう。虚しいものだ。


「ふーん、そうなんだ」


「その常識を最初に壊したのは翔人でしょーが。いくら悪あがきしてもここに電話番号がある事実は変わらないから!」


「あんま期待せずに待ってるな〜。てか人のセリフの途中に電話をかけ始めるなよ。全く、これだから賢い奴ほど常識がないっていうんだよ…(個人の意見)」


プルルルルッ…、プルルルルッ…、プルルガチャ。




−−−はいもしもし、澪楓です


−−−お忙しい中すみません。わたし、唐綿 瑠璃というものです


−−−はぁ…ってえっ唐綿 瑠璃⁉︎ えぇ⁉︎なんで本の中から現実世界に電話ができて繋がるの⁉︎


−−−それは企業秘密ということでひとつお願いしますね。それで今回の用件なんですが、単刀直入に言います。…翔人の設定についていじってもいいですか?


−−−まさかキャラにキャラのプロット変更を求められるとは思わなかったなぁ…。でも、まぁ、面白そうだからいいっすよ。あ、でも今更外見とか出自とかの変更はめんど…できないので、追加するとしても能力とかの後天的なものにしておいてくださいね


−−−わかりました!失礼します


ガチャ。




「原作者の許可も取れたので、早速会議を始めましょう‼︎」


「み〜お〜か〜‼︎ 覚えてやがれーーー‼︎」


「翔人君、原作者の名前を呼び捨てにしちゃさすがにまずいんじゃあ…」


怨念を撒き散らしながらどさくさに紛れて◯走中を開始!なお、ハ◯ターは2人から開始し、増えない(よね?)


「あーーーっ!逃げた‼︎」


「わたしたちから逃げられると思ったら大間違いだにゃ!」






=====






5分後、運動能力が鬼な彼女達から逃げ切れる筈もなく羽交い締めにされて帰宅した。周りから見たら、情けない男に見れることだろう。


だがしかし待って欲しい!賢い諸君なら既に察しているかと思うが、このポジションは役得だ!これは俺がMだからではなく、大きく実った張りのあるスイカがじっくりと堪能できる、という意味でだ。羨ましいだろぉ?


代償は美女からのゴミを見る視線を耐えることだけ!お安いよ〜!(※メンタルが強い人のみ)


しっかりとキメられて、無念なことに帰宅させられた。


「でも変えるといっても、出来ることって意外と大したことはできないんだよね」


「そうだね。特に後天的なものの追加しかできないからどうしても」


「そういえばさー、この会話文の鍵括弧って何人かがたらい回しに話していると誰の発言か分からなくなることないか?」


「急に話し出したと思えばなんなのその話題。でもまぁ言いたいことはわからないこともないかな〜」


さっすがラノベにも手を伸ばしている瑠璃なだけはあり、この感覚もわかるらしい。にしても自分でも信じられないくらいアホな話題転換だな、これ。


「そうですか?そこのあたりが曖昧になるのは文章のせいではなく、作者の技量の問題だと思うよ。実際、現代文の授業とかの文章って主語が誰か書かれていなくても読んでてわからなくなることなんてそうそうないでしょ」


た、たしかに…。でもそれを肯定しちゃうとこの作品が下手って認めちゃうことになるから絶対に認めないけどね!


「はいはい、話の脱線はそこまでにして。…自分ではどうしたいの?」


ふむ、俺自身が俺をカスタマイズするのか…。悪くない、いやむしろいい‼︎


「そうだな…、まず典型的なイケメンの条件である文武両道、性格は社交的で優しい。そのわりにはちゃんと男らしい一面も持っていて……ん?な、なあ、なんで2人して哀れな子を見る目をしてるんだよ!そんな目で見られたら死にたくなるだろうが‼︎……お願いしますやめてください」


「ここまで現場に不満を抱いているとは思っていなかったから…ちょっと引いちゃった」


「うん…私もるーと一緒。ただ、翔人君にもそういう一面があるんだと思ったら…なんだか安心したかも」


「俺は別にサイボーグでも悪魔でも植物でもないんだが?ちゃんと人間してるから感情くらいはあるよ?というか君たちに毎日毎日毎日毎日泣かされているんだが!」


「へぇ〜そうなんだ。それで?」


「……えっ?」


ここにきてその返し⁉︎予想外すぎて思考は一瞬フリーズ!


「それで?」


「あ、あの、話、聞いてた?」


「うん。ちゃんと聞いてたよ。それで?」


「それでって言われても…」


「それで?」


「さっきからリピート機能をオンにしてない?機会と話しているみたいで怖いんだけど」


「それで?」


「……いえ、ただの愚痴でした何でもないです」


「じゃあ続けるね」


「ハイ、ワカリマシタッ‼︎」


男女平等至上主義のオレは、冤罪で痴漢扱いされたら逆に名誉毀損で訴える男!でも、ハイライトの消えた視線にはなれません…。ボク、Mじゃないので‼︎え・む・じゃ、ないので‼︎


「意見全部を取り入れることは多分できないだろうけど、いくつかなら大丈夫だと思う」


「そういえばさ、また話変わるけど何か面白いネタない?最近なんだか創作意欲がなくなってきちゃってさ」


「それはどっちの意見なの?翔人君、それとも中の人?」


「うーん、強いて言えばどちらもだな」


「それは強いて言ってないね」


「ならなおさらこの緊急原作者会議はしっかり設定を煮詰めないといけないね!覚悟してね、翔人?」


「えっ、あっ…ぁぁぁあああぁぁあああっ‼︎‼︎ しまっっったぁぁぁーーー墓穴掘ったーーーっ⁉︎」


「それで、翔人君の設定についてだけど…」


この会議はおよそ日が暮れるまで続いたのだった。いやホント長かった…。それはもう地獄のような時間だった。女子が白熱しすぎて本を読んでいてもばれなかったし。



この後、しっかり本は着火剤にされたことはご愛嬌。






=====






翌朝、目が覚めてすぐに昨日決まったことが嘘ではないことが身に染みてわかった。


階段を降りようとすると節々が悲鳴を上げ、朝食を食べようとするとアゴが笑い出す。靴を履こうにも手が震えまともに履けない。


そう昨日決まったことのせいで、日常生活すら全く違うものに−−−

























……なりませんでした、はい。


そりゃあそうだろう。昨日結局何も変えなかったんだから、今日の俺のキャラも変わるはずもない。


そこで今までのくだりについて疑問を覚える者もいることだろう!だが安心して欲しい!ただの心労と筋肉痛になっただけだ‼︎


本を買いに行くだけのはずだったのに美女2人に連れ回され、挙句長時間自宅にて自分のアイデンティティをねぼりはぼり目の前で話されたのだ。疲れない方がおかしい。

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負け組高校生は頑張りたい 饅頭屋せんべい @manjuya-senbei

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