14話 その後と最終日 朝食

「それで、どうやって俺達の監視網を抜けた?」


 CPから接近の注意喚起が無かったことから、監視網を欺いたのだと考え、問い質す。


「どうやってって、これ?」


 そう言いながら雫は銀色の遮熱シートを取り出し、頭から被った。

 ……こいつ、やっぱり俺達の監視網に気付いてながら接触してきたのか。


「いつから気付いてた?」

「んー、初めから。助言。学校、気を付けた方がいい」

「? まぁ、気に留めておく。すまないが、CPにお前に身分を明かしたことを報告するぞ」

「ん。いいよ」


 CPを呼び出そうと、無線機のPTTボタンを押し込む。


「CP、CP、こちらマルヒト」

『マルヒト、こちらCP。送れ』

「対象アルファに接触され、身分を明かされた。それに伴い、こちらも身分を明かしている。送れ」

『CP了解。後ほど、報告書を提出せよ。送れ』

「マルヒト了解。終わり」


 ……まぁ、そうなるよなぁ。


「よし、じゃあ、気を付けて戻れよ。そろそろ巡回時間だ」

「ん。分かってる。貴方も、気を付けて」


 ぱっと見で見つけられる分の薬莢を拾い上げ、回収。そのままポーチに入れて封印する。


「本当に、回収するんだ?」

「俺が居た証拠を残さないためにな。訓練の時はただの再利用だ。そっちでもやってるだろ?」

「本国は知らないけど、横田では最近、やってる。リサイクル精神万歳」

「はは。……じゃあな。これからいい関係が築けることを切に願う」

「こちらこそ」


 そうして俺達は別れた。

 ……あの監視網の中、接触してくるなんて予想できなかったな。そして、自分の所属を明かすのも。

 ま、今日分かったことと言えば、どこの国も俺達のような非合法隊員を抱えていることだな。

 米国しかり、露国しかり、何かしらのな。


 ☆★☆★☆


「おはよう、忠長君」

「おはよう、遥香」


 朝、忠長は朝食時に遥香に捕まった。

 彼女の顔には不満が見え隠れ。

 手を腰に当てている姿は「私、言いたいことがあります!」と主張しているよう。


「昨日のことなら家に帰ってから話す」

「……約束よ?」

「ああ、約束だ。白蛇びゃくだ様の名に懸けて」

「──♪ うん♪」


 取り敢えず、彼は彼女の頭を撫でて機嫌を取る。


 なでなで

 にへら♪

 なでなで

 えへへ~♪


 チョロい。生粋のオタクである初寧的に言うと、チョロインだろう。


(……はぁ、やっぱり、昇進保留を解除して昇進してやろうか。上官があいつってのもなぁ、やりにくい。ここ一年程で理解した。取り敢えず、突撃癖を矯正しなければ。どこの世界に前線へ真っ先に突っ込む指揮官がいる。)


 などと、心の中で考えていたりするが、表情に一切出さない。

 こういうところは、流石の一言だろう。


「んっと。遥香、向こうで友達が呼んでるぞ」

「あ、うん!」


 遥香の後ろから「遥香ちゃ~ん」という呼びかけが聞こえたので、忠長はそっちに行くように促す。

 彼女は、長い髪を振りながらピンク髪のセミロング少女と甘栗色髪のポニーテール少女の下へと向かう。


(……あれは、俺と同じクラスの喜多田結芽きただゆめだったか? 遥香の奴め、いつの間にほかのクラスの連中と仲良くなったんだ?)


「た~だ~な~が~くんっ♪ 一緒にご飯食べよっ♪」


 忠長は後ろから抱き着かれ、ぎゅーっと抱きしめられる。


(……姉弟子、いつの間に俺の後ろを……?)


「虹海さん、おはようございます。と、雫も、おはよう」

「おはよう、忠長君」

「ん、おはよう」


 虹海の後ろで雫がウィンクをする。無駄に上手なのが地味にうざい。


「で、どう? 一緒に食べよ?」


 忠長は班員を探し──一人だけ、寂しく一人で朝食を食べている有希を見つけた。


「いいですよ。但し、あの子と相席してもいいのなら」


 そう言いながら有希の方へと足を進める。


「有希、相席、いいか?」


 彼は、忠長の方を向き、少し驚いた表情をした後、「うん、いいよ」と言った。


「いいそうなので、相席させてもらいましょう。はい、二人はご自身の朝食を取ってきてください」


 この研修会では、朝晩はバイキング形式で食事が提供されている。

 その種類は豊富で、和食から始まり、洋食や中華料理など、様々な料理が取り揃えられている。

 朝晩の食事に関して、彼らは不自由することが無かった。


「相席で悪いな」

「ううん、大丈夫だよ」

「……何かあれば、相談に乗るからな」

「うん、ありがと」

「よし、俺も取ってくる。雫も虹海さんもいい人だから、怖がらなくていいぞ」

「あはは、うん、ありがとう、吉村君」


 忠長は、席から立ち上がり、バイキングコーナーへと足を運ぶのであった。

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