13話 侵入。制圧。そして

 こんばんは。忠長です。

 四月十四日の夜です。

 今日は京都を散策したんだが……何故か唯華に懐かれた。いや、本当に、何故懐かれたのか分からない。あと、遥香からのメッセージが怖い。


『ねぇ、忠長君。あの青髪の子と茶髪の子は誰????』

『ねぇ、誰なの????』


 お前は俺の母さんか何かか。


 っと、まぁ、そんなわけで既に消灯時刻は過ぎている。

 正直言って、一週間連続行軍訓練より疲れた……。


『マルヒト、マルフタ。CP、送れ』


 ……はぁ、こんな時に。

 翔馬と有希は……寝てるな。


「CP、マルヒト、送れ」

『CP、マルフタ、送れ』

『【聖域カリス】内に侵入者あり。北西に一個小隊、南西に一個小隊。それぞれ、十と五。また、施設内・・・から一名、体温と骨格から女と推定。対処せよ。マルフタ、送れ』


 施設内から……もしかして、雫か?


『シャドウマン、どうする?』

「北西を貰った」

『了解。なら、私が南西ね。CP、マルフタ。聞こえてた?』

『オールコピー。交戦を許可する。制圧せよ』

『了解、マルフタ、終わり』

「マルヒト、了解。終わり」


 ゆっくりと布団から抜け出し、気付かれないように戦闘服に着替える。

 市街地戦用の戦闘服ではなく、書類上は非公式装備の森林戦用の戦闘服を持ってきている。

 太腿に黒く塗りつぶしたナイフを装備し、腰には公式装備のUSP9を装備。フラッシュライトも装備してはいるが……まぁ、使わないだろ。

 あとは、ラペリング用のロープを窓から垂らして……っと。その前に、こいつらに睡眠薬を嗅がせてっと。すまないな。気付かれるわけにはいかないんだよ。

 そう言い残し、ロープを伝って部屋から抜け出した。


 ☆★☆★☆


「シューター、マルヒト、送れ」

『マルヒト、シューター、送れ』

「こちらが見えるか?」

『見えますが……援護不可です。南西側は射撃援護可能』

「なら、そっちを援護してくれ。こっちは大丈夫だ。送れ」

『了解。ご武運を。終わり』


 そちらこそ、と心の中で思い、木の枝の上に飛び移る。

 ……そっちか。侵攻グループの場所にアタリを付け、枝から枝へと飛び移る。

 闇から闇へ。陰から陰に飛び込み、気取られないようにする。

 風に紛れ、移動するときに発生する音を偽装する。

 っと。あれか。


「CP、CP、マルヒト、送れ」

『マルヒト、CP、送れ』

「北西、目標を捕捉。種別不明なるも装備はアサルトライフル一丁に拳銃一丁、ナイフと標準的な武装。アサルト、拳銃ともに形状からサプレッサーを装着している模様。送れ」

『了解した。被害を出す前に制圧せよ。送れ』

「了解。マルヒトからマルフタ、送れ」

『はいはい、っと。なぁに?』

「ちゃんとしろ。そっちとこっちで合わせるぞ」

『了解。カウントスリーね』


 太腿のホルダーからナイフを取り出し、構える。


『カウント、スリー、ツー、ワン──』


 相手部隊の指揮官と思われる男へ狙いを定め──


『イマ!』


 ──飛び降りる。

 俺のナイフは吸い込まれるように男の項へ向かい──血が噴き出る。と、同時に着地。

 追加のナイフを二本引き抜き、近くにいた戦闘員二名の動脈に向かって投げつけると同時に、ホルスターからサプレッサー付きのUSP9を取り出し、その戦闘員の頭を狙って二発ずつ射撃。戦闘集団が対応し始める前に目視範囲内の敵に発砲し、計七名を制圧。その直後に茂みへと飛び込む。

 無線の向こう側の『クリア!』という声を聞き流しつつ、移動し、最後の三名を仕留めに掛かる。左手にナイフを持ち、後ろから急接近。米国の特殊部隊員に習った近接格闘術CQCで相手の最後尾にいる男を拘束し、残りがこちらを撃てないようにする。

 その隙を突いて、それぞれ三発、サプレッサーを付けた場合の有効射程内から発砲。動かなくなったところで拘束中の男の首を締めあげて気絶させた。


「……クリア、だよな。マルフタ、オールクリア」

『こっちもオールクリア。CP、マルフタ。【聖域】は制圧された。送れ』

『了解した。別の部隊が後処理を行う。元の任務へと復帰せよ。送れ』

『マルフタ了解』

「マルヒト了解」

『以上』


 ふぅ……なら、薬莢だけ回収して──ッ!?


 ガサゴソ、と草むらから何かを擦る音がした。

 反射的に拳銃とフラッシュライトを抜き放ち、音のした方向へと向けると同時に誰何する。


「誰か!?」

「ん、眩しい。その声は、吉村君……?」


 まずい。これは不味い。かなり、不味い。

 どうする? 死体がある以上、これを誤魔化すことはできないぞ……っ


「ん。心配しなくても大丈夫。私は貴方の味方。だから、Turn off your flashlight. (そのライトを消しなさい)」

「……チッ。Who are you? What’s your affiliation? I think you aren’t official US army. (お前は誰だ? 所属は? アメリカの正規軍じゃないだろ)」

「わお。そこまでバレてるなんて。私びっくり。日本の防諜は凄い。それじゃあ、礼儀に則って。アメリカ陸軍特殊部隊司令部隷下、特殊所属工作群所属、宮古・シャーロット・雫大尉。コードネーム、ティアドロップ」

「聞いたことが無いぞ」

「だって、今年、極秘裏に新設されたから。これ、内緒。出来ればそっちのHQにも」

「……」


 フラシュライトを消し、向けていた拳銃をゆっくりとおろす。

 そのまま拳銃をホルスターへ納め、答礼をしてこう名乗る。


「日本国陸上自衛隊、陸上総隊隷下、特殊作戦群所属、吉村忠長三等陸佐。雫、お前のことは司令部に報告する。だが、所属については伏せておく」


 内心、安堵しながらも、報告書について頭を悩ますのであった。

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