8話 研修会初日 朝 その二

「はぁ~い! みなさぁ~ん、おはようございま~す! 集まってますかぁ? 出席番号順に並んでくださ~い!」


 一年三組の担任、椎野望奈美しいのみなみが人数を確認しながら声を張り上げる。


「私のクラスは全員いるみたいですね。それじゃあ、皆さんお待ちかねの班発表です! まずは昼の行動班からいきます!」


 彼女はそう言いながら、プリントを配る。

 そこにはモノクロではあるものの、可愛らしく装飾された班の名簿が並んでいた。


「続いて、夜の班も発表します~」


 忠長は、プリントから自分の名前を見つけ出す。


「昼は堀田翔馬ほったしょうま春原有希すのはらゆうき津田唯華つだゆいか安芸花奏あきかなでと同じ班か……。それで、夜は──ああ、夜も同じ男子メンバーだな」

「はぁ~い、行き渡りましたか~? それが今回の班です。皆さん、仲良くしてくださいね? 喧嘩をするとこわぁ~~~い、風紀委員が出張ってきますから。ね、吉村君?」


 話半分に聞いていた忠長であったが、突然話を振られ、鬼の形相をしている姉弟子を思い浮かべ、苦笑いしながら頷く。


「うん、四月とはいえ、まだ朝は寒いので、バスの中に入りましょうか。大きな荷物はバスのトランクに入れるので、バスの中で必要になりそうなものがあれば、今のうちに出しておいてくださいね。それじゃあ、移動しますよ~」


 望奈美がのほほんとしながらバスへと先導する。その間、忠長は、無線機の音に集中する。


『シャドウマン、シューター。先ほどの無線、混線等は確認せず。そのまま合わせて使用しても問題ありません』

「了解」


 小声で短く返し、誰にも悟られないように何気ない様相を装う。


「せんせ~」


 バスへの道中、一人の男子生徒が望奈美を呼ぶ。


「はい、なんですか?」

「バスの席は自由ですか~?」

「う~ん、そうですねぇ。自由でもいいですけれど、この際なので、昼の班で集まって座りましょうか。男子が多い班は女子を取り合って、女子が多い班は男子を取り合ってくださいね~? 因みに、今回のバスは少し小さめなので、ちゃんと考えて座ってくださいね。あっ、一番前の列は空けておいてくださいね。同行する生徒達と先生方が座りますから」


 屈託のない笑顔で宣う望奈美に頭を抱えそうになる忠長だが、寸でのところで我慢し、どういう内訳になるのかを考える。


(ふむ。これはもう、こうするしかないだろ。俺と春原が窓際、堀田が補助席、その間に女子が座ればいい。そうすれば誰も喧嘩せずにハッピーエンドだ)


 補助席について何も言われなかったことから、彼は補助席を使っても問題ないと考え、瞬時に配置を決める。

 バスに到着した一行は、トランクの中へ荷物を入れていく。それが終わると、班員同士で集まり、座席を決めているようだ。

 勿論、忠長達も例外ではなかった。


「えーっと、吉村君、でいいよね?」


 振り向くと、そこには赤髪の顔が整った──所謂イケメンの男子生徒がその両隣に女子を侍らせて立っていた。

 忠長は、その女生徒を津田唯華と安芸花奏であると推測する……というか、既に知っていた。普段の仕事の関係上、一度見た顔と聞いた名前は忘れない。つまり、入学式後のロングホームルームに参加した時点で、彼はその場に居たクラスメイト全員の顔と名前を憶えている。

 唯華は茶髪でミディアムヘアだが、少し癖毛があり、毛先が丸まっている。

 花奏は黒に近い紫色の髪でそれをサイドテールで纏めている。


「ああ、そうだ。よろしくな」

「こちらこそ、よろしく。僕は堀田翔馬。この二人は──」

「ミディアムヘアの方が津田唯華。サイドテールの方が安芸花奏、であってるよな?」

「吉村君、もう、憶えたの?」


 首を傾げながら問いかけてきたのは唯華だ。自信が無い、というよりかは──委縮したような声だ。


「クラス全員憶えてるぞ。記憶力はいい方なんでな」

「す、すごい……。私なんてまだ誰も覚えられてなくて」

「まぁ、憶えなくても何とかなってる人もいるし、そこまで気にする必要はないんじゃないか?」

「う、うん。そうだね」

「あと一人は──」


 翔馬が辺りを見渡していると、忠長が一人の軽く天然パーマがかかった男子生徒を指さす。


「春原有希。あいつだな」


 その視線に気が付いたのか、彼は忠長達の方へと歩み寄ってくる。


「あ、あの、三班のメンバーでいいのかな……?」

「うん、そうだよ。僕は堀田翔馬。こっちが──」

「吉村忠長だ。よろしくな。それで、こっちの茶髪が──」

「つ、津田、唯華です。よろしくお願いします。えっと、それで──」

「私が安芸花奏よ。よろしくね、春原君」

「す、春原有希です。よろしくお願いします」


 こうして、彼ら、第三班の顔合わせは終わったのだった。

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