第25話 珠ちゃん先生


「ギリギリセーフだな」


学校の校門の前では珠ちゃん先生が時計を確認し、俺たちにそう言う。

黒スーツでミニスカートを履いた珠ちゃん先生は黒髪ショートで怖そうに見えるがとても美人だ。


「おはようございます〜」


「おはようございます」


「おはよう」


俺たちが挨拶をすると声音は怖そうだが、きちんと挨拶を返してくれる。


「珠ちゃん先生。朝から大変ですね」


「これも教師の務めだ。遅刻者には宿題。これを徹底的にしなければ遅刻はなくならないと思うのでな。それと教師に向かってちゃんを付けるな。どいつもこいつも私をちゃん呼ばわりして。全く...」


新任教師の珠ちゃん先生は今日も教師の鏡のような姿を見させてくれる。


「お疲れ様です。珠ちゃん先生頑張って下さい」


「珠ちゃん先生のそういうところ好きですよ〜。頑張って下さい〜」


「頑張るさ。お前らの教師だからな。それとちゃんを付けるな」


そう言いながらも珠ちゃん先生は嫌そうな顔を一切見せない。


「はいはい〜」


俺たちが校舎へと歩みを進めようとした時、珠ちゃん先生から声がかかった。


「あっ、ちょっと待て、お前らもしかして付き合っているのか?」


「付き合っています〜」

「付き合ってないです」


「そうか」


珠ちゃん先生は小さな声でそう呟き、どこか微笑ましそうに見送るのだった。


予鈴のチャイムが鳴り、遅刻者が校門に入ってくると


「お前ら遅刻だ。全く...仕方のない奴らだな。遅刻した罰として宿題3倍と反省文渡すから職員室まで来い」


「ひぃぃぃ。でも珠ちゃん先生に罵られるなら一生遅刻する」


「そうだな。宿題3倍と反省文なんか珠ちゃん先生の罵りに比べたら安いもんだぜ」


「だな!」


「あぁ!」


「お前ら...。放課後も職員室へ来い。私が直々に遅刻することへのだらしなさについて教えてやるから覚悟しろ」


「「ありがとうございます」」


と後ろからよく分からない会話が聞こえたが俺たちは教室へ行くことにした。



「皆さんの視線はずっとこちらを向いているけどルールを守っているのは安心〜」


先程から俺が椅子に座っている上に天音ちゃんが乗るというよくわからない状況で千崎やルカ、メイドの他に周りの生徒の殺気に満ちた視線が怖すぎる。


「視線怖い...」


「でもまだ12時までは時間あるし、ゆうさんは私だけを見てね〜?」


天音ちゃんの時間は6時から12時までで約3時間程残っている。


「あぁ、そうだな」


「それで、何で俺の上に座っているんだ?」


ある程度、免疫がついて来たのか平静を保てるようになってきた。


「ゆうさんとずっと一緒に居たい〜」


「これってまずいだろ」


「私は気にしないよ〜。ゆうさんだけを見てるし〜それに座るところ何てどこでもいいでしょ〜?」


「いや、これは流石にまずいと思うんだが...」


「気にしないことが一番楽だよ〜」


それに天音ちゃんが動くたびに変な気持ちになってしまうからやめて欲しい。それにすりすりするな。



「これからホームルームを始める前に、柚木いつからお前はそんなに身長が伸びたんだ?」


ホームルームの始まるチャイムが鳴ると同時に珠ちゃん先生が教室へと入って来た。

珠ちゃん先生は生徒たちを見渡し、出席確認をしようとするが俺たちの状況に気付いてしまったようだ。


「知らない間に伸びてました〜」


「そうか。それと自分の席に着け」


「ここが私の席ですよ〜。珠ちゃん先生忘れちゃいましたか〜?」


「まぁ、冗談はこのくらいにして、何故柚木の下に佐藤が座っているんだ」


佐藤ゆう。俺の名前だ。


「私はこの席がいいからです〜。どの席で授業受けても変わらないですよね〜」


「ダメだ。柚木と佐藤の言動を許してしまうと皆んな好き勝手に席を移動してしまい授業が出来なくなってしまう。だから自分の席へ戻れ」


流石珠ちゃん先生。他の先生とは違い、ちゃんと注意してくれる。


「はい」


天音ちゃんも珠ちゃん先生には逆えず、素直に自分の席へと戻る。


「よろしい。お前ら二人には宿題3倍で許してやる」


「「そんな〜」」


「ホームルームの時間を奪った罰だ。それに高校生でそういう行為をするのは幾分早すぎると思うが...。私が今の高校生に追いついていないだけなのか...。わからない...。が、ホームルームでそういうことをする二人は度胸があると私は思う。素直に見習うべき所だ」


「ってそういうことしてませんからーーー!!」


天音ちゃんは否定しなかったが俺は珠ちゃん先生の勘違いをすぐさま否定した。



「柚木さんどうしちゃったんだろ」

「流石に教室で変なことするのはやめてよね...本当」

「どうせあいつの指示だろうし、最低すぎ」

「だよねだよねwキモすぎて誰も話しかけられなかったよねwww」

「みんな引いてたwww」

「それなwww私もゆうくんっちに話しかけたことあるけどもう無理だわwww」

「汚れる的な?www」

「それそれwww触られたら死ぬwww」

「私ももし話しかけられたらと想像すると死にたくなるwww」

「それに四股はやばすぎるでしょwww」

「有り得なさすぎwwwクズ中のクズwwwマジ死ねばいいのにwww」

「お金とか払ってたりしてwww」

「100万とか渡して彼女になって下さいとか?wwwマジ有り得そうwww」

「それなwww」


天音ちゃんが自分の席へと戻り、珠ちゃん先生が出席確認をするために一人一人名前を呼んでいる最中に囁き声がクラス中から聞こえてくるが、全く聞き覚えがないことだった。そもそも付き合った覚えはないし、四股とかやってる訳がない。


「はぁー」


俺はため息をつき、いつか殺される日が近づいていることを意識して学校生活を送ることに覚悟するのだった。

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