第12話 遊園地デート

二人揃って教室へ入ると不躾な視線がそこかしこから感じる。クラスの奴らはすぐさま会話に戻るが、柚木西園寺メイドとロリはこちらをじっと見つめてくる。するとロリが椅子から立ち上がり歩み寄ってくる。


「ねぇ!ゆう!!私は決して謝らないの!!そして私は女子の味方!男子は敵!酷いことをしているゆうは許さない!」


頬を膨らませ、指を指してくる。


「ち、ちょっとみっちゃん」


「千崎は黙ってて!さっきは逃げちゃったけどもう逃げないの!千崎に嫌われてもいい覚悟で言う!」


「四股はダメ!!!ぜったーーーーーいダメなの!!!だからゆう死ねぇーーーーー!!!」


そしてひとしきり叫んだ後、恥ずかしさが後々になってきたのか顔が真っ赤になった。


「一人を選ばなきゃダメなの...。ってあーーーーーーーー!!!!」


ロリは廊下で声を荒げながら逃げていった。


「何だったんだ今のは」


「みっちゃんを理解するのは難しいわ」


「そうか」


「それで、あなたは何をしているのかしら?」


「ご主人様に何があったか確かめています」


いつの間にか俺の目の前へと来ていたメイドはいきなり抱きしめ匂いを嗅いでくる。


「嗅ぐな」


「少しご主人様の匂いに変化がありますね。一体何があったのでしょうか?」


不敵な笑みを浮かべ、黒崎に探りを入れる。


「長峰さん?抱きしめる必要もないし、今は私の時間よ!ルールも守れないの?」


「ついゆう様のことを考えていたら抱きしめていました」


「そ、それは仕方ないわ。だったら早く離れなさい」


「はい...」


「今後はちゃんとルール守るのよ?」


「もちろんです」


そんなやりとりがあり午後の授業も終わりすぐさま帰ろうとしたのだが、


「待って!ゆうちゃんー」


「何だ?」


「これから私とゆ、遊園地行かないかしら?」


「今から遊園地行っても少ししか遊べないぞ?」


今は15時、遊べるにしてもせいぜい2時間程度だろう。


「い、良いの!私はゆうちゃんと遊園地行ってみたかったから」


「めんどくさいんだが」


「お願い!!お金は私が全て出すから!ゆうちゃんは好きなものを食べていいから一緒に遊びましょう!」


「......」


「ゆうちゃんと遊びたい...」


純粋無垢な瞳で言われたら断れる訳がない。


「わかった。行くよ遊園地」


「嬉しい!!では早速行きましょう!!」


学校から走りすぐさま遊園地に着いた俺たちは周りを見渡しまず何から乗ればいいのか考える。

遊園地は平日なこともあり殆ど客は居ないし貸し切り状態と言っても過言ではないほどすっからかんとしていた。夕陽が遊園地一帯を照らし、どこか懐かしい感じになる。子供の頃来た以来の遊園地で少しはワクワクする。

横を見ると顎に手を当て、真剣に遊園地のマップを見ている黒崎がいる。制服姿の男女二人は側からみれば恋人とでも思われているのだろうか。


「まずはジェットコースターから乗りましょう」


「いきなり激しめだな」


「遊園地を感じたいのよ」


意味不明なことを言う黒崎に手を握られ、ジェットコースターの所まで連れてこられた。

俺たちはナイトパスを購入していたのでそれを係員に見せ、ジェットコースターへ乗る。すると係員から声がかかる。


「お二人はカップルなんですか?」


「え、えぇ」


「そうなんですね!羨ましいです!私もこんな青春送りたかったな〜。是非楽しんでくださいね!」


「彼氏と沢山楽しみます!」


「そう言ってもらえると嬉しいです!では発車しますのでシートベルトを再度確認し、外へ手や足など出さないようにお願いします〜」


俺たちは再度確認し、心を改める。


「それでは〜3・2・1・バンデット〜」


掛け声と共にジェットコースターはすぐさまスピードが上がり、上り坂に辿り着く。ゆっくりと登っていくので緊張感が凄まじい。


「ゆうちゃん」


呼ばれたので隣を見ると怯えている黒崎がいた。


「怖い」


手が震えていて治まらない。

ここは素直に握ってやるのがいいか。女子が怖がっているのに無視することは流石に良心が痛むからな。


「ゆうちゃんありがと」


優しく握ると震えが止まったのがわかる。冷たい手が徐々に熱を帯びていき、手を絡ませてくる。

その間に登り切り、そして猛スピードで加速した。降りる時間はすぐなのに時間が止まったかのように長く感じる。ジェットコースター特有の浮遊感にも苛まれ、無意識に黒崎の手を強く握ってしまう。だが、それは黒崎も同じなのか強く握り返してくる。この右手は一生離れないんじゃないかと思うほど握られ離さない。


「楽しいっ!」


ジェットコースターに慣れたのか黒崎が笑いながらそう言う。


「だな!」


「隣がゆうちゃんだから楽しめる、安心できるの。だからずっと一緒」


そして、最後に一回転する一番怖い難所に差し掛かるとき黒崎が呟く。


「また一緒に来ましょう」


「あぁ」


俺が答えるとジェットコースターはぐるりと一回転する。


「キャーーーーーーーーーーーー!!!」


すると黒崎が大きな奇声を上げ、今まで見たことのない一面を見てしまった。

そのままジェットコースターは終わりを迎えて徐々に停車していく。


「千崎ってあんな声出るんだな」


「つ、ついゆうちゃんが隣にいたから...安心して...変だった?」


「べ、別に普通の女の子だなって思った」


「そ、そう。なら良かった」


「で、次はどこ行く?」


「えーと、お化け屋敷!!」


俺たちはその後も沢山遊びまくって、メリゴーランドやコーヒーカップ、ゴーカートなんかもやったりした。その中でもお化け屋敷は強靭黒崎と言われている割には怖いらしく、俺の後ろにひっつきながら歩いていた。

そして、17時30分を回り、辺りは暗くなり始め、最後に観覧車に乗ることになった。


「凄い夜景ね」


観覧車の頂上へ行くと街全体を見渡せる夜景が見える。明かりがそこかしこから放たれ、絶景と言っても過言ではないほどの演出を醸し出していた。


「そうだな」


「綺麗...。一つ一つの家には人の営みが今あるのね」


儚げに言う黒崎はいつも見るよりも美しく思えた。


「こう見ると各家庭に人がいて、愛する人がいて、必死に生きて、何か悩みなんかちっぽけに思えてくるよな」


「そうね...。私の悩み何かちっぽけよ。よしっ!頑張らなきゃ!」


「どうした?」


「ねぇゆうちゃん...。私ゆうちゃんが大好き」


黒崎がこちらを振り返り、顔を寄せ、俺のぽっぺに柔らかな感触が感じた。


「っって!!お、おい!」


口が離れた後もそこは熱を帯びている。


「負けないから」


顔を真っ赤にして宣言する黒崎はどこか大人の女性みたいで色っぽく思えた。


「次遊園地来るときは口にキスするから待っててね」



「つ、次な」


動揺を隠せない俺と黒崎のデートはそこで幕を閉じたのだった。


「いつ拉致しようかしら」


「何か言ったか?」


「何もっ!」


別れる際に何か言った気がするが黒崎が嬉しそうなのでどうでも良かった。

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