専用武器と傭兵と商人と・・・編

第12話 武器を作ろうとしました

 フェル村からエルドとサイファが帰ってきて数週間が過ぎた。

 朝からエルドとサイファはいつものようにカーマに遊ばれていた。が、ネルスラニーラの報酬によって得られたイヤリングにより目線で合図を出さずとも連携が取れるようになった。

 そのおかげもあり、為す術もなくボロボロにされていた2人もほんの少しずつではあるが持ちこたえられるようになっていった。


「おうおう、ちっとは持つようになったな!じゃあ、難度を少し上げてみようか?」


 カーマが楽しくなってきたのか、片手剣ではなく、刃を潰したカーマの身長ほどもある大型の剣を2つ腕輪型のアイテムボックスから取り出した。


「おい、エルド。カーマ様は双剣使いでもあるのか?というか、さっきより笑顔の怖さが半端ないんだが・・・。」


「サイファ、違いますよ。師匠は双剣使いとか大剣使いとかそんな陳腐なものじゃありません。あの人は自分が使いたい武器を勝手に使うだけの超が付くほどの我が儘なヒトなんです。

 だから、師匠に得意とかそういうものはありません。お気に入りしか使わない変なヒトで十分ですよ。

 それにああなった師匠が怖くなかったことなど1度たりともありませんから!来ますよ!!」


 紅くグラデーションされた髪を揺らしながらカーマが口角を上げたまま、少しずつ歩み寄ってくる。その重圧に2人は身構え、唾を飲み込む。

 待ち構えるよりも打って出ることにした2人は絶望に向かって走った。



「今日もいい汗かいたな、お前達は。俺はまだまだかけそうもないなぁ。いつになったら汗をかけるようになるのか・・・。おい、聞こえてるか?」


 エルドは地面がひび割れるほどの強さで打ち込まれ、サイファはエルドの後方に引きずられたような跡を創って横たわっていた。2人とも息はしていた。

 そんな2人を尻目にカーマは2本の大剣を地面に刺し込んで一息ついていた。

 フェル村から帰ってきてからというものカーマの訓練の難度が上がってきている。それを気分によって強さを変える。スキルを使うことはもちろん許可されていない。使えばどうなるか分かっているから尚のこと使うという選択肢がない。

 もちろん、使い放題、武器も刃が付いているのを使用し放題という実戦形式もあるのだが、毎回するとエルドとサイファの傷の回復が間に合わないこともあるので頻度は高くない。


「じゃあ、休憩するか。」


 カーマは少年の首を持ち上げ、獣を肩に担いで家へと向かうのだった。







「師匠、明日から鍛冶場を使いたいので、少し時間をもらってもいいですか?」


 昼食を終えた3人が思い思いの場所で過ごしていると、エルドがカーマにそう告げた。カーマは視線をエルドに向けると顎を使って続きを促した。


「そろそろ、自分の本気に耐えられる武器を創りたいと思いまして・・・。師匠に創成方法を教えて欲しいのです。」


「本気ねえ。」


 カーマは体をエルドの方に向けて、真剣な表情を創って考え込み、そしていつもより低い声になってエルドに問うた。


「今になってそう思った理由はなんだ?」


「このままではいけないと。まだあの力を使いこなせていない自分には早いことも分かっています。ただ、このままでは使いこなすことも出来ない。そう考えたんです、師匠。」


 サイファは耳を動かしながら、片眼を開けて事の成り行きを見守っていた。


(エルドがアレを使いこなせない理由はまだ力が出来てないこと、レベルが足りないだけだと思うんだがな。まぁ、本人はそんなこと関係ねえと思ってるんだろうな。そもそもアレを修得した時点でとんでもないんだがな。まぁ、俺もエルドのことをとやかく言えねえが・・・。)


 サイファはそう思いながら、静かに見守っていた。そして、エルドは更に続ける。


「己の力量が足りないせいだと、分かっています。ただ、ほんの一歩だけでもいいのです。貴女に近づきたい。それが自分の力じゃないとしても。」


 エルドは今までにない意気込みをカーマにぶつけた。鍛冶場は今までも何度も使っている。今、使っている武器も自分で創製した。

 しかし、それでも自分が本気で使えば愛用している武器がどうなるかは分かっていた。

 自分が創る技量がまるで足りていないこともその要因であると、エルド本人は考えていた。


「お前にはまだ教えていないことは沢山ある。それは武器を創ることもその1つだが・・・。」


 カーマは天井に顔を向けて唸っていた。可愛い弟子であるエルドの要望には応えたい。だが、カーマの基準ではエルドの戦闘力はまだまだなのだ。それもあって思い悩んでいるようだった。


「どんな武器が創りたいか決めてんのか?」


「いや、それが全く・・・。」


 肩透かしを食らったように、ガクっと肩を落としたカーマは次第に体を震わせた。


「何も考えてねえ奴に教えられるか!!どんなのを創りたいか決めてから相談しろや!!」


「そんなこと言ったって、創れるようになってから考えたいんですよ!!良いから教えて下さいよ!!」


 真面目な雰囲気だったのも束の間、文句の言い合いに発展した2人にサイファくだらないとばかりに欠伸をして寝る体勢になったのだった。


「ゼェゼェ・・・。大体な、使いこなせてからじゃねえと教えねえって最初から言っただろうが!!このドチビが!!」


「ドチビではありません!!成長期なんですから、そのうち身長も実力も超えますよ!!」


「口だけは達者だねぇ、まだ1撃も入れられない貧弱が!!」


「貧弱なのは拾われたばかりの頃の話でしょ!今は全く違います!!それに可愛い弟子のために1撃ぐらいもらってやろうかという優しさが貴女にはないんですか!!」


「優しいに決まってるだろうが!!!誰がそこまで鍛えてやったと思ってんだ??あぁん!!」


「それは師匠ですよ!!どうもありがとうございます!!!」


 立ち上がって、しばらく言い合っていた2人も疲れたのかお互い座りこんで息を切らしていた。そんな中、カーマがエルド顔を向けて言い放った。


「兎に角、お前がアレを使い熟さない限り、武器の創成方法は教えねえぞ。話はそれからだ!!んでもって、どんな形状か、どんな大きさか、どんな風に使いたいか、今からしっかり構想でも練っとけ!!!この話は終わりだ!」


「ちっ、分かりましたよ!!外に行って練習してきますよ!!」


 埒が明かないと諦めたエルドは立ち上がって外に向かって歩き始めた。


「行ってこい!!飯も忘れんなよ!!」


 エルドはカーマを睨んで、扉を勢いよく閉めて外へ出て行き、カーマは、はぁと息はいて顔を下に向けた。

 サイファは2人のやりとりが終わり、エルドが外に行ったところで体を起こしてカーマに近づいて話しかけた。


「カーマ様、少しは教えてやっても良かったんじゃ?最近、エルドは何かと焦っているような気がしますし。何かのキッカケを与えるためにも・・・。」


 サイファは訓練の難度が上がって実力も上がってきている相棒があそこまで意気込んで頼んでいた様子を見て、さりげなく援護をしようとしたが、カーマは首を振った。


「だから、なおさらダメなんだ。あいつが上手くいっていないことも分かっているし、焦っているのも何となくだが、察しているんだ。これでも・・・。

 だからといって、まだ早い。使い熟せることが前提条件なんだよ。全てのな。そこから始まる、俺の時もそうだったんだ。5割まではすんなりといくんだ、そこから先は自分でどうにかするしかない。

 だが、まぁ。目先を変えるのは必要かもな。鬱憤も溜まってそうだし。」


(鬱憤が溜まっているのは間違いなくカーマ様のせいです!!)


 サイファは口に出さず、思うだけに止めたが、カーマは視線をサイファに送る。下に向けていた顔を再び上げた。


「何か言いたそうだな、サイファ・・・。まぁ、いい。近々、気晴らしでもさせてやるか・・・。」






(ケチな師匠め!!少しぐらい教えてくれたって良いじゃないか!!)


 足取りに怒りが込められているエルドは家で2人がそんなやりとりをしている中、落ち着くために庭にある岩の上に飛び乗った。


(とりあえず、落ち着こう。焦っても仕方ない。少しずつやっていくしかないか・・・。)


 エルドは呼吸を落ち着かせて自らの魔力を収束させていく。


(自分を中心に波紋を広げるように、力の波を作り、それを集めるっ!!)


 エルドを中心に青い光の粒が周りを漂う。

 漂っていた光の粒がエルドの中に入っていく。


(このまま全てを収束させる!)


 集まってきた光がエルドを光に変えんばかりに勢いを増していく。エルドがそのまま光に変わるかと思われた瞬間、集まってきた光は消えてしまった。


(やっぱりダメか。収束させるのは間違いない。だけどなぁ、な~んかしっくりこないんだよな・・・。)


 エルドは今までと同じようにやってみた。カーマから教えてもらった技を完璧にするために。しかし、5割程度までは上手く出来るようになって以降、遅々として進まず、失敗を繰り返すばかりで苛立ちが募るばかりだったのだ。


(はぁ~・・・。武器さえあればなんて、安直だよな。訓練でダメにするのは師匠が打った失敗作ばっかりで関係ないし、俺の失敗作も使ってるわけだし。しかもダメにするのは自分だけだし。)


 エルドは自分が上手くいかないことを使用している武器のせいにしたが、本当の原因が自分であることは痛いほど感じていた。


「自分の最高の武器か・・・。まず、剣はないな。師匠と被るし、他のヒトも使っているだろうし、それに今の打撃と刺突を使える武器の方が慣れてるし。でも、今の形状はただの棒を尖らせただけだしな。」


 座っていた岩の上で寝転びながら、独り言をブツブツと呟いていく。言い合いの最後にいカーマから言われたことをエルドはなんだかんだと実行していた。


「イメージを具体的に描いてみるか・・・。」


 エルドは空を眺め、雲が通り過ぎていくのを眺めていた。


(打撃と刺突が出来るように刃はつけない。先は鋭くするとして、持ち手を狙われることもあるだろうから、鍔迫り合いしても届かないように幅を広くする?いや、それだとなぁ・・・。)


 仰向けになっていた岩から飛び下りてエルドは木の枝を拾って図形を描いていく。描いては消して、描いては消してを繰り返してようやく形状を決めた。


(よし、これなら殴ることもできるし良いかな。ずっと持つわけにはいかないし腕輪から出すのも面倒ではないけど、ネルスラニーラさんは腕輪型のボックスは珍しいと言っていたし。腰に差す所を作るか!)


 エルドは悩んでいた事を忘れるほど熱中した。そのおかげか、大体の形が決まる頃には気分も落ち着きを取り戻し、日差しも色を帯び始めていた。


「さぁ、帰ってご飯でも作るかぁ。師匠ももう落ち着いているだろうし。今日は何を作ろうかな。」


 足取り軽くエルドは食いしん坊の2人が待つ家へと帰っていくのだった。










 食いしん坊達のお腹を満たすための戦闘を終えたエルドは後片付けをしている真っ最中だった。サイファは出された肉に満足したのかいつもの位置で既に寝そべっている。カーマは酒を飲みながら、ツマミを催促するかどうか迷っていた。


「師匠、言った通り明日は鍛冶場を使います。なので朝の基礎訓練を終えたら籠もりますのでサイファと訓練して下さい。」


「教えねぇぞ、酒を禁止されても教えねぇぞ!!」


 悲壮な顔をしながら断るカーマに一抹の同情を感じながらもエルドは続けた。


「その件は諦めてますよ。第一段階すらまともに使い熟せない私が悪いのですから。ただ、気晴らしに考えついた武器を作ってみたくなりまして。」


「へぇ〜。エルドも仕方ねえ奴だな。良いぞ、鍛冶場を使うことは許可してやる。た・だ・し、俺が気に入らなかったら、即すり潰してやるからな。いつもの様にまずは鉄で作れ。」


「分かってますよ、今まで何本叩き折られ、捩じ切られ、折り曲げられたか・・・。」


 ニヤニヤしながら酒を煽るカーマとは対照的にエルドは悲しそうに影を背負いながら口に出す。だが、その悲しさを振り払うようにエルドはカーマを見て、宣言した。


「今回に関しては大丈夫です!師匠の専用武器の中で同じ形のはありませんから!!」


 溌剌とした顔で言うエルドを見て、カーマは内心、ホッとした。自分の弟子が中々、上達しないことで焦っていることを感じていたが、今のエルドを見ると吹っ切れた様に感じたからだ。


「じゃあ、楽しみに待つとしようか。そんなに自信があるならな。」


(無事に作り終えたら、ちょっと外に出してみるか。)


 カーマは次の訓練内容を既に決めていた。今までの訓練とは全く違うが、弟子の世界を広げるためには必須事項であった。どうなるかは分からないがあまり過保護にしても良い事はないと己の経験から理解していたというのもある。


「勿論ですよ。分かっていると思いますが、籠もるので昼食は各自でどうにかして下さい。台所が悲惨な状況になっていたら、どういう目に合うか・・・。分かっていますね、2人共。」


 少しの間、沈黙が空間を支配した。言われたことを理解したのか、寝そべっていたサイファは急に立ち上がるとエルドに詰め寄り、カーマはグラスをテーブルにダンっ!と叩きつけるようにおいて立ち上がった。


「ちょっと待て、相棒!!俺はそもそも料理できねえんだぞ!!」


「俺に前みたいな飯を食べろっていうのか!もう昔には戻りたくない!!」


 笑顔で二人に忠告するエルドは抗議の声を上げる食いしん坊に最後通告をするように更に言葉を発した。


「聞き分けないと、7日間野菜のみと酒禁止にしますよ?」


 ビクっと身体を震わせて笑顔のエルドにダラダラと汗を垂れ流すサイファとカーマ。最後は項垂れて、はいと返事をするほかなかった。

 聞き分けなかった場合、どうなるかは実体験済みだった食いしん坊2人。あの時の苦行を思えば1食、2食ぐらいどうにかするしかなかったのだ。渋々、了解をした2人を見て、構想を練った武器の完成を想像してエルドは高揚していた。


(さあ、やるぞ!まずは鉄で作って師匠を唸らせて、その後は何で作るかなぁ。重くして、扱い慣れるようにするのと打撃力を持たすための措置だな。まるで鉄アレイだな。)


 既にカーマを唸らせることが出来ると信じて疑っていないエルドは試作を終えた後、どの金属で作るのか夢想して、にやにやしている。逆に食いしん坊2人は未だに落ち込んでいた。

 対照的な3人に関わらず、次第に外は暗くなっていき、周りは静かになっていった。



 翌朝、基礎トレーニングを終えたエルドは鍛冶場に来ていた。髪をまとめ上げ、汚れても良い格好をしている。

 金属を融かすように作られた窯の魔石に触れて魔力を流していく。すると、部屋の温度が一気に上昇する。窓を少しだけ開け、空気を循環させる。朝の澄んだ空気が入ってくるがすぐに熱気を帯びてしまう。

 少しずつ汗を流しながら、エルドは真剣な表情をして窯の光を見つめていた。


「さぁ、始めようか。」


 集中を高めて、そう呟くと鈍く光る金属の板をオレンジの光の中に入れていくのだった。


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