第30話

鎧騎士「魔王様、私の背中へ!」


魔王「案ずるな、鎧騎士」


鎧騎士「……はっ」


魔王「勇者よ、先に言っておくが……」


魔王「お前の力は私に通用しない」


勇者「っ!?」


魔法使い「勇者の力が……」


僧侶「……バレ、てる?」


魔王「勇者の力……?」


魔王「……ククク、ハッハッハ」


勇者「……何がおかしい」


魔王「そうか、人間の間ではそう伝わっているのか」


僧侶「……どういう、こと」


魔王「その力は勇者の力などではない……呪いだ」


魔法使い「だりゃあっ!!」


勇者「魔法使いっ!」



魔王「……随分と血の気の多い人間だ」



魔法使い「うそっ……」


勇者「魔法使いの一撃を、片手でっ……!?」


僧侶「……やあっ!」


魔王「……ふん」


鎧騎士「隙を見せたなっ!」


魔法使い「っ!」


僧侶「……?」



魔王「お前も大概だな、鎧騎士」


鎧騎士「魔王様、これは一体……」


勇者(あっちの鎧着てる方には効いてるみたいだな……)


魔王「下がっていろ。今のお前には何も出来ん」


鎧騎士「……了解しました」



勇者「さっきの話、どういうことだ」


魔王「ほう、話を聞く気になったか」


勇者「このままじゃどうしようもないしな」


魔王「先代勇者と魔王の戦いについては、どこまで知っている」


勇者「親父……先代勇者が戻ってこなかったことぐらいだ」


魔王「そう、先代の戦いは熾烈を極め……結果は相打ち」


魔王「しかし、魔王はただでは死ななかった。今際の際に勇者へ呪いを掛けたのだ」


勇者「呪い……」


魔王「勇者なのに貧弱だろう?お前は」


勇者「そんなことまで知ってるのか」


魔王「ほう。ただの予測だったが、どうやら当たっていたようだ」


勇者「……どういうことだ」


魔王「私も同じ、ということだ」



鎧騎士「魔王様……」


魔法使い「勇者と……」


僧侶「……同じ?」



勇者「魔王が、俺と?」


魔王「勇者への呪いに全てを込めたのだろう。今の私には下級の魔物一匹統べる力すらない」


勇者「じゃあここへ来た時の魔物はなんだったんだ」


魔王「あれはそこにいる鎧騎士の部下だ」


魔法使い「じゃ、じゃあさっきボクの斧を受け止めたのは……」


魔王「察しが悪いな。勇者と同じだと言っただろう」


僧侶「……まさか」


魔王「お前が魔物を無力化するように、私も人間を無力化出来るのだよ」


勇者「……一つ聞いていいか、魔王」


魔王「ああ、こちらばかり話していたしな」


勇者「なぜその事を俺たちに話したんだ。手の内を明かすようなものだろ」


魔王「明かしてどうこうなる手の内でもないだろう?」


勇者「まぁ……確かにそうかもしれんが」


魔王「特に理由は無い。話してみたかっただけだ、お前と」


勇者「お前……本当に魔王なのか」


魔王「なんだ、疑ってるのか」


勇者「今まで会った魔族の中で一番人間っぽいぞ」


魔王「ふっ……魔族としての力を持たぬからかもしれんな」



魔法使い「なんか、思ってたのと全然違ったね」


僧侶「……うん」


鎧騎士(魔王様があんな風に笑われるなんて……)



魔王「……さて、勇者よ」


勇者「ん」


魔王「やるか」


勇者「……やる必要、あるのか?」


魔王「妙な事を言うな。そのためにここへ来たんじゃないのか」


勇者「一応、そのつもりではあったんだが……」


魔王「今の話を聞いて気が変わったか?」


勇者「お前が魔物を指揮して人を襲わせてるわけじゃないんだろ?」


魔王「ああ……今は、な」


勇者「随分と含みのある言い方をするじゃないか」


魔王「私だって腐っても魔族だからな。力を取り戻せばどうなるかは分からん」


勇者「……」


魔王「それに魔王を倒せるのは勇者だけだぞ。そこもお前と同じでな」


勇者「なるほど、そりゃたしかに厄介だ」


魔王「だろう?」


勇者「……よし、じゃあ戦って決めるか」


魔王「む」


勇者「俺が勝ったら、俺の言うことを聞いてもらう」


魔王「ほう」


勇者「お前が勝ったら、お前の好きにしろ」


魔法使い「勇者!?」


魔王「大層な自信だな」


勇者「……何言ってんだ、自信なんてあるか」


鎧騎士「魔王様……」


魔王「案ずるな、負けはせん」


勇者「そっちこそ大層な自信じゃないか」


魔王「唯一の部下の前でくらい、格好つけさせろ」


勇者「……」


魔王「……」



勇者「行くぞ、魔王っ!」


魔王「来い、勇者っ!」

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