第6話

勇者「……さて、俺も風呂に入るかな」


勇者「しかし、この服改めて見ると……所々血が染み込んじゃってるな」


勇者「まぁ、仕方ないか。あんだけグシャグシャ潰れればな」パサッ


勇者「むしろ、服として機能してるだけでもこの素材を評価できるぜ」


勇者「さっさと入ってさっさとあがるか、腹も減ってるし」ザパーン


魔法使い「ゆ、う、しゃッッ!」


勇者「なんだなんだ、どうしたんだ」


魔法使い「なんだよ、このフリフリした服!」


勇者「いや、魔法使いっぽくていいじゃないか」


魔法使い「まあ確かに……じゃなくて!」


魔法使い「こんなの……ボクには似合わないってことだよっ!」


勇者「んー……そんなことねーと思うけど?十分似合ってるぞ?」


魔法使い「え……そんな、その……」


勇者「まぁ、そのまな板をなんとかすりゃ見栄えもかわっ」ゴシュ


魔法使い「……死んじゃえ!」


僧侶(……相変わらず)



勇者「そういや、僧侶」


僧侶「……なに?」


勇者「ほい、これ」


僧侶「……杖?」


勇者「あれだ、特注品で持ち手のところを鍛えた鉄の棒にしてある」


勇者「今使ってる木の杖より、強化したときの威力があるはずだぜ」


僧侶「……あり、がとう」


勇者「なーに、金は余らしてても意味ねーからな。旅が楽になるならそっちのほうがいいさ」


僧侶(……大事に、使おう)ギュッ


魔法使い「……む」



勇者「んー……腹いっぱいになったのは久しぶりだなー」


魔法使い「やっぱり、しっかりした料理を食べるようにしたいね、旅してても」


勇者「そうだよなー……」


僧侶「……私、料理、出来る」


勇者「な、なに!?マジか!」


僧侶「……少しなら」


勇者「いいことを知ったぜ……これで上手い飯が食べれる!」


魔法使い「……むむ」



勇者「さて、そろそろ寝るかなー……って、あれ?魔法使いは」


僧侶「……外」


勇者「……こんな時間にか?」


僧侶「……」コクリ


勇者「……」




魔法使い「はぁー……なんだかな」


魔法使い「僧侶ちゃんはボクと違って、回復も補助も得意だし」


魔法使い「ただの戦闘バカって必要なのかな……」


魔法使い「はぁー……どうしよう」


勇者「どうしようって、どこか行くあてあんのか?」


魔法使い「!!」


魔法使い「……勇者」


勇者「ったく、せっかく人が服買ったってのに、こんなとこ座り込んじまって……」


魔法使い「ご、ごめん……」


勇者「……だー、もう!何悩んでんのかしらねーがな!」


勇者「お前を不必要だなんて思ってねぇよ!」


勇者「確かに、僧侶は万能型だから、そこに負い目を感じるのは分かる!」


勇者「だけど、それを言っちまったら、このパーティーで一番必要ないのは……」


勇者「俺だ!」



勇者「だから、俺が抜ける!」


魔法使い「……」


勇者「なんだ、そのアホを見るような目は」


魔法使い「いや、だって……」


勇者「だってもクソも、あるかってんだ……」つねつね


魔法使い「い、いたふぃ……」


勇者「遊び人とか商人とか、戦いに向いてない職でも勇者の仲間として戦った記録が残ってんだ」


勇者「悩む前に、旅をしようぜ。魔王を倒してから、ゆっくりと悩めばいいさ、なっ?」


魔法使い「……うん」



僧侶「……」スー


勇者「寝ちまってるな、僧侶」


魔法使い「まぁ、色々大変だったしねー。ボクも凄く眠いや……」


勇者「俺も大分疲れてるわ……寝るとするか」


魔法使い「……でさ」


勇者「ん」


魔法使い「なんでベッドが一つしかないのかな?」


勇者「いや、別にいいだろ。俺床で寝るから」


魔法使い「え」


勇者「ん?まだなんか話があるのか?」


魔法使い「い、いや……なんでもないよ」


魔法使い(……昔はよく一緒に寝てたのにな)


勇者(自分で言って悲しくなったが、本当に俺必要ないよな……くそっ)


勇者(また、特訓しなおしてみるか……)


勇者(……)




宿主「ゆうべは、おたのしみでしたか?」


勇者「あんただったのか、あれは……」


魔法使い「無駄な気遣いです!」


宿主「いやぁ、申し訳ありません……」


僧侶「……ねむ」くしくし


勇者「さて、腹ごしらえも済んだし出発するか」


魔法使い「そうだね、長くいても仕方ないし」


僧侶「……」コクリコクリ


勇者「とりあえず、情報があった北の山へ向かうかな」


魔法使い「あー、寒いことかー……寒いの苦手なんだよなー」


勇者「まぁ、ある程度の準備はしておいたが、寒さは慣れるしかないな」


僧侶「……」プクーッ




ビュゴー  ビュゴー


勇者「……こりゃ、予想以上の吹雪だな」


魔法使い「ううう……さ、むいよぅ……」ガチガチ


僧侶「……さむ」


勇者「とりあえず、ほい」ヒュ


魔法使い「これって……暖房の実?高いよね、確か」


勇者「金を抱えて凍え死ぬよりはマシだろ、ほら僧侶も」ヒュ


僧侶「……」パク 「……か、らい」


勇者「まぁ、このままボーっとしてても寒いだけだし、暖かいのが続く間に行っちまうか」


魔法使い「そうだねー……覚悟を決めるよ」


僧侶「……出発」


ザク  ザク


勇者「しかし、北の山なんて初めて来るな……地形が分からん」


魔法使い「ボクが寒いとこ苦手だからねー、暑いとこもだけど」


僧侶「……」ピク


魔法使い「むむっ」


勇者「ちっ、魔物の気配がするな……どんな奴がくるやら」


魔物「グギャギャギャ!ニンゲン!ニンゲン!」


勇者「うわぁ……めちゃくちゃ強そうじゃねぇか」


魔法使い「しかも若干言葉を話してるね」


僧侶「……強い?」


魔法使い「まぁ、話してても通じるかなんて知らないけどね」ズシャン


魔法使い「先手必勝!」ズゴン


魔物「ハハァッ!」ヒュッ


魔法使い「しまった、避けられたか!」ググ


魔法使い「……埋まって、抜けない」


勇者「何してんだバカ!得体の知れない相手に突っ込んでいくなんて!」


僧侶「……助ける」ザザッ


魔法使い「うぐ……落ちろ!稲妻!」ドゴーン


魔物「ギャギャギャギャッ」バッ


魔法使い「全然堪えてないっ!」カキィン


僧侶「……無事?」


魔法使い「ありがと、僧侶ちゃん……死ぬかと思ったよ」


僧侶「……くっ!」ギィン


魔法使い「とりゃっ!」ガィン


魔法使い(足場が不安定でいまいち戦いずらいや……)


僧侶(……硬い)


勇者「見た目的には炎に弱そうだが……この地形じゃ魔法使いに負担がなぁ」


勇者「魔法に期待はできず、物理戦は防御強化と攻撃強化をかけて互角ってところか」


勇者「いきなり強くなりすぎだろ、魔物……」


勇者「ま、炎をどんぐらい怖がるかだな。試してみるか」カチッ  ボッ


魔物「ギャギャッ!?」ザザッ


魔法使い「……?」


勇者「おっ?」ブンブン


魔物「ギャギャギャギャ」ズザザッ


僧侶「……炎」


勇者「やっぱり苦手だったか。これで、形勢ぎゃくて」


魔物「ギャギャギャギャ」キュイーン


勇者「……魔法も使えんのか、よ……油断した、な。ぐほぇ」ドサッ



魔法使い「魔法を使える魔物がこんなに……?」


僧侶「……まずい」


魔物「ゲギャギャギャギャギャハ」キィィィン


魔法使い「……多重詠唱、か」


僧侶「……」


魔法使い「僧侶ちゃん」


僧侶「……?」


魔法使い「ボクが合図したら、すぐに防御壁を全力で張ってね」


僧侶「……」コク


魔法使い「じゃぁいくよ。せーの!」


僧侶「……防御壁!」キュイーン


魔法使い「お願いだから、魔力よ尽きないで……舞い上がれ!業火!」ドゴゴゴゴ


魔物「グゲギャアアアア!!」ジュウウウウ


僧侶(……凄い)


魔法使い「……ふぅ」ドサ


僧侶「……!!」


僧侶「……気絶、してる」


魔法使い「すー……すー……」


僧侶「魔法使い!寝たら死ぬ、起きて!」

グラグラグラグラ 


ズザザザザザ


僧侶「……う、そ」



魔法使い「……ん、んん……はっ!」


僧侶「起きた!」


魔法使い「僧侶ちゃん……よかった、生きてたんだ……」


僧侶「……こっちの、台詞」


魔法使い「服、新しく買ったのにボロボロにしちゃったね……ごめん」


僧侶「……気に、してない」


魔法使い「……ありゃ?勇者は……?」


僧侶「……」

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