桜降る朝、君に会う

宵埜白猫

桜降る朝、君に会う

それはただの偶然だった。

強く吹いた風が桜の樹を揺らして、花びらが舞った。

舞う花びらを追って振り返ると、視界いっぱいに広がる薄紅色の世界。

瞬きの間にその世界が消えた時、君は、その樹に背を預けて眠っていた。

腰の丈まで伸びた真っ白な髪、閉じられたまぶたの上のしなやかな白い睫毛。

そして透き通るような白い肌。

その全てが、まるで絵画の中から飛び出してきたように美しくて、儚かった。


「ねぇ、こんなとこで寝てたら風邪ひいちゃうよ?」

私はその少女を軽く揺すって声をかける。

白い少女は薄く目を開け、眩しそうに手をかざす。

青い瞳が不安そうに揺れる。

「……誰?」

「きっとすぐに分かるよ」

私がそう言うと、少女はこてんと首を傾けた。

「それより、早くしないと学校、遅れちゃうよ」

「っ!そうでした。遅れないように早く出たのに、この桜があんまり綺麗だったから――」

「お花見してたら寝ちゃったのね」

少女は顔を赤くして、すたすたと歩いていく。

「あっ、待ってよ。一緒に行こ!」

「……私があそこで寝てたことは、誰にも言わないで下さいよ」

私が横に並ぶと、小さな声で少女が言う。

「二人だけの秘密ってことね」

「なぜあなたは初対面でそこまでなれなれしいのですか?大体さっきも――」

私の隣を歩く小さな白い少女は、最初に見た印象より賑やかな子だったらしい。

こんな賑やかな子となら、これからの三年間も楽しくなりそうな気がする。


『入学おめでとう!』

そんな文字が書かれた立て看板の横を、私と同じ制服を着た少女と一緒に通りすぎる。

「まあとりあえず、三年間よろしくね!」

「……私は、三年生です」

横を歩く少女はさらりとそう言った。

「……え?」

少女、先輩の言葉に驚いていると、今度はゆっくり、聞き間違えではないというようにはっきりと。

「だから、私は、三年生なんです」

「おはようございます!生徒会長!」

「ええ、おはようございます」

通り過ぎる生徒に笑顔で挨拶をして。

「それでは、私は入学式の準備があるので……そうだ、今日の放課後、生徒会室まで来て下さい」

そう言ったこの白い生徒会長の笑顔は、さっきまでの清楚な笑顔とは違う小悪魔的な物だった。

「……はい」

「待っていますよ……ああそれと、入学おめでとうございます。この一年、お互いにとって楽しい一年になるといいですね!」

心の底から楽しそうな表情で笑うこの人を見て確信する。


どうやら私の高校生活は、穏やかにはならなさそうだ。

そんな事を考えながら、私は空から降る桜を、そして目の前の先輩を眺めていた。


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桜降る朝、君に会う 宵埜白猫 @shironeko98

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