なんでもかんでもお金で解決する世界

ちびまるフォイ

なんでも金で考えるんじゃないよ!

「え!? 俺の給料高すぎ……! こんなにもらっていいんですか!?」


「当然ですよ。むしろ低いくらいです」


軽く引くほど初任給をもらったので、

記念に美味しいものでもとお店に入った。


「いらっしゃいませ。なににしますか?」


「高級ディナーセットをひとつもらおうか」


「うちは先払い方式になります」


お金を払って席に座ると、テーブルには紙が置かれていた。


『着席1時間ごとに1000円のチャージ料をいただきます』


一体何をチャージしているのかわからないが、

「チャージ料はここへ→」と書かれた箱にお金を入れる。


テーブルの端を見るとまた紙を見つけた。


『おしぼり 1個 100円』


「これも金とるのか……」


100円を投入して箱のフタを開けてからふきんを手に取る。

軽くテーブルを拭いてから食べ物の到着を待つ。


それなのに待てど暮らせど一向に運ばれてこない。


むしろ、俺より後に来店した客のほうが先に運ばれているじゃないか。


「おい! いつになったら俺の料理は来るんだよ!

 そっちの客は俺より後に入ったはずだろう!?」


店員は悪びれる様子もなく答えた。


「はぁ、でもお客さん、メニューの代金しか払ってないですよね?」


「え?」


「そっちのお客さんは料理の代金とは別にお金を払ってもらってるんです。

 そちらを優先するのは当然でしょう?」


「なっ……」


次に入ってくる客も、その次の客も、注文した後で追加でお金を払っている。

課金注文者と無課金注文者で明確に待遇差をつけているんだ。


いや、注文している段階でお金は払っているけれども。


「食べ物の代金しか払ってない方は、当然ですが後回しです」


「払えば良いんだろ!!」


席の代金におしぼり、さらに優先配膳料まで取られてしまった。

ぼったくりの店にでもあたった気がしたが、どうやらあの店だけではなかった。


「お並びのお客様、こちらのレジへどうぞ」


長蛇の列ができてるコンビニのレジ前。

俺の後ろに並んでいた人が当然のように先へ進もうとする。


「おいあんた! ちゃんと順番守れよ!」


「いや、ちゃんと金払ってるんだから先に並んでいいに決まってるでしょう。

 なにを言ってるんだあんたは」


「そういう問題じゃ……」


列に並んでいる他の人も俺をじっと見ている。


「え……これ、俺がおかしいの……?」


他の人もすぐに財布からお金を準備していた。


「無課金は後ろに並べよ!」


レジまでの順番は先着ではなくお金をかけた順へと並び替えられた。

もちろん俺は最後尾。


後から入ってくる人がお金を出せば俺の前に並ぶので、

いつまでたってもレジの列が減ることはなかった。


「いったいどうなってるんだ……」


テレビをつけると当たり前に政治家が賄賂をおおっぴらに渡していた。


『先日、私はこの議題には反対と言いましたが、やっぱりやめます!!』


国会議員が全員椅子から転げ落ちたのを見たのは初めてだった。

タレントさんはギャラだの年収だの、お金の話ばかりしている。

街角アンケートでは「男性の求める年収TOP10」が出ていた。

人間性どこいった。


「この世界は金に汚染されている……」


俺の給料がアホほどもらえたのは、この街で生活するために必要だったからだ。

チップのようにあらゆるサービスや日常生活にお金は回収されていく。


たくさんもらえたつもりでも、実際にはそうでもなかったんだ。


「おい! そこは課金優先席だろう!?」


「すまんのぅ……立っていると足が痛くて……」


「じじい! 金も払ってねぇのに席に座るなんて犯罪だ!!」


「しかし、わしの年金じゃ切符代だけで限界で……」


電車では高齢者に怒鳴る若者がいた。

俺はもう我慢できなくなり、若者の前に進み出た。


「……なんだよ? なんか文句あるってのか?」


「ああ文句あるとも。そこのおじいさんを怒鳴ったうえ立たせれば君の心は晴れるのか」


「俺の問題じゃねぇ!! このじじいがルールを破ってるから怒ってるんだ!

 みんなちゃんと金を払ってるのに、このじじいだけは払ってねぇ!

 こういうことを許せば他に金を払ってる人がバカみたいじゃねぇか!!」


「バカはお前だーー!」


俺は渾身の猫パンチを浴びせた。


「さっきから聞いていれば、金、金、ルール、ルール。

 君にはこのおじいさんの姿が見えていないのか!?」


「なにを……」


「ルールを守らせて金を取って、おじいさんを無理やり立たせれば満足か!?

 人間ってのはそういうものじゃないだろ!!」


「じゃあこのじいさんはどうするんだよ!」


「席の代金は俺が払う! これで文句ないだろ!!」


俺は叩きつけるようにしてお金を渡した。

若者は「それなら……」と言いよどみながらもそれ以上は何も言ってこなくなった。


「ありがとうございます。本当に助かりました」


「いいえ、これしきのこと」


「いただいた席代は必ずあとでお支払いします。

 今すぐには無理ですが必ず……」


「いえいえ、いいんですよ。あくまで俺があなたに席を買ってあげたかっただけですから」


「どうして私なんかのために……」


おじいさんは不思議がっているのでここ一番のキメ顔で答えた。


「困っている人を、見過ごせないだけですよ。

 見返りを求めてやったことじゃないですから」


すると、おじいさんはますます鬼気迫る顔で叫んだ。



「払わせてくださいぃ! じゃないと、後で何か請求されそうで夜も眠れません!!

 タダでなにかする人間に借りを作るほうがよっぽど怖い!!!」

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