月に抱かれて

満月あかり

第1話 宣告

10年前に戻れたら私は私を引きずり倒してやる。

殴りに殴って酒や薬を捨てろと怒鳴りつける。

まだ間に合ったはずだから。


10年後にお前はすごく人を好きになる。

だけど、お前を責めずにはいられないんだよ。お前は子供も産めないし体が病に侵され障害を抱え生きる事になる。

夢を諦め当たり前だった事がどんどん当たり前じゃなくなる。

そして

恋も出来ないと絶望する。


その手に握ったウィスキーも安定剤もお前を助けてなんかくれない。

どうして誰にも言わなかった?

助けを求めなかった?

間に合ったんだよ。

きっと間に合ったんだよ。

10年前に戻れたら私はお前を助けてあげるのに。


メガネを作りに店に行ったら、視力が測れないと言われた。

どうしたものかと眼科に行くと医師の顔つきが変わった。

直ぐに内科へ紹介された。


思い返せば

昔から虚弱体質ではあったが元気だった。

絵本や物語が大好きで

いつも物語に自己陶酔して入り込み自分が主人公の世界で楽しんでいた。

たくさん人形を買って貰っているのに

文房具を人形代わりにして遊ぶような子供だった。

もちろん皆には見えない友達が沢山いた。

変な子なのは間違いなかったがそんな自分をとても大好きだった。

中学生時代は、真面目に部活に取り組んだ。

部活の傍ら図書委員になり図書室で沢山本を読んだ。

そして

相変わらず物語に入り込み自分を主人公にして妄想の世界に身を投じて楽しんでいた。


家にはいつも1人でいた。

テーブルに置かれた3000円を握り1週間くらい二人暮しをしていた父が帰らないなんて事はざらだった。


夜中にTSUTAYAへいき、

hiphopのcdやビデオを漁る日々。

14歳の私の日課だった。

心がついていかぬまま

体や知識だけはどんどん大人になっていく。

ひとりぼっち

寂しくても寂しいなんて口にすることなく

夜中にコンビニやTSUTAYAをうろつく毎日だった。

ちょうどその頃。

私に新しい友達が出来た。

ブラジル人の友達が出来た。

美人で明るくて賢くて

いつも夜中にTSUTAYAに一緒にいった。

ルナが大好きだった。

一緒にいると無敵になれる気がしていた。


内科で受診して大きな大学病院へ紹介された。

入院して色んな検査をした。

私の内臓は50%死んでいたし

免疫力は赤ちゃんレベルの低さで

おまけに目は失明寸前だった。


ああ、現実か。


そのつらさをまた酒と薬で散らせたなら簡単だっただろう。


死にたいと

早く死にたいとずっと死に急いで生きてたのだから。

願ったり叶ったりなはずなのに。


「もう10年持ちませんよ?」


と冷たい目をした医者からの宣告。


頭がズキズキした。


退院して次の検査の予定をきめた。


頭がクラクラした。


ルナに病気の話をした。


泣きながら話をした。

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