第三話 ネゴシエーション? リサベルさんと愉快なごろつき達(3)

「そうか。お前、本気で私達の邪魔する気だな?」


 リサベルさん、俺の雰囲気から何をする気か分かったみたいだね。


 確かに俺にも、彼女は仕事の出来そうな奴っぽいと思えてきたよ。


 仕事の出来る奴の条件の一つは、『相手の心根を敵味方の区別に捉われず測れる事』だからね。


 俺はアクアレーナに、優しく声を掛ける。


「大丈夫。だからそこで見ててくれ」 


「は、はい……」


 彼女は素直に俺の言う事を聞いてくれてさ。


 そういう風にしてくれるのって、男の顔を立ててくれてるみたいで、なんか嬉しいってそう思う。


「おうおう、どうやら一度痛い目見なきゃ分からないらしいな!」


 ごろつきその一が『俺はそう来てくれるのを待ってたんだぁ!』と言わんばかりの、そんな食い付きようで俺に威圧の言葉を浴びせてきた。


 やれやれ。何処の世界にも居るんだな、こういう暴れたがりなタイプの奴って。


 とはいえ、こうなったらやるしか無い。


『交渉事は時には拳と拳のぶつかり合いでも出来るもんだ』とは、俺の唯一尊敬してた一人の上司が言った言葉だ。


「俺今スマホさえ持ってない丸腰だからさ。だからその腰に下げてる剣、使わないでいてくれるよな?」


「スマホ? ああ、ゼルトユニアじゃ役立たずなニホン人の道具か。へっ、心配しなくてもお前みたいな奴は素手で!」


「痛み入るね。ニホンでヤンキー達に絡まれた事が有ったんだけどさ、そいつ等は『武器使ってる俺カッケー』みたいな感じで、容赦無く危ないもん振り回してきて大変だったんだ」


 流石に金属バットぶら下げてたりとかじゃなかったけど、鞄からチェーン出したりはしてたよ。


 きっと威嚇目的だったんだけど、そういう奴が逆上してガチで振り回したりすると返って危ないものなんだ。


 その点、このごろつきその一は威嚇の為に武器を持ってる訳じゃないらしくて。


 だから返って強い奴なんだなって印象が持てる。


 だけど――。


「いや、ここは俺が行く」


 へえ……?


 このタイミングでごろつきその二の方が、その一を差し置いて前に出てきた。


 こいつはあれか。普段口数は少ないけど心に闘志を秘めてるタイプって所か。


「え、ええっ!?」


 突然出番を取られたその一が、派手に驚いてるのはちょっと面白いけどさ。


「良いですね、姉御」


 その二の方もリサベルさんを姉御呼びしてて、そこはブレずにその一とは仲良しなんだぞって感じを出している。


「おう、好きにしな」


 これまた気風の良い感じでリサベルさんが答えて、その二は微かに唇の端を緩めた。


 本当にお前達、リサベルさんの事が好きなんだな。


「姉御の許しは貰った。これで心置きなくやれる」


「ふっ、良い顔しちゃってさ」


「なんだと?」


「いや、同僚で仲が良いのは良い事だなって思っただけだよ」


「……」


 その二は語気静かで、でも体から出る威圧感はその一よりも上って感じがしてる。


「へっ、俺の相棒にビビっておかしな事言ってんじゃねーぞっ!」


 出番を取られたその一が、それでも後ろから俺へと言ってきててさ。


 奴がその二を応援してる感じなのは、ちょっとだけ可愛いかなとそう思う。


 多分だけど、その一とその二はきっと良いコンビに違い無い。


「レン様危ない!」


 アクアレーナが俺に注意を促してくれたのは、その二が突っ込んできたからだ。


 でも俺はその二が突っ込む前に予備動作として、姿勢を一瞬低くした時点でもう来るのが分かっていた。


「有り難う!」


 アクアレーナの気遣いに、ちゃんとお礼を言いながらその二を迎え撃つ。


 その二の大振りなパンチ、見てから身を引いてかわすの余裕だね。


 そのまま左の握り拳を作ってその二の頬を張る。


「なんだと!?」


 そう声を上げたのは後ろで見ているその一の方だ。


「言っとくけど、俺はそのヤンキー達との喧嘩には勝ってるからな!」


「……ふんっ!」


 その二はあくまで寡黙に、至近距離から今度は前蹴りを放ってきてる。


 さっきの俺の攻撃はまだ様子見のカウンターで、浅く入れるのが精一杯だった。


 左からの方が打ち込み易い角度だったというのもあって、要するにその二にとってはダメージが浅い。


 だから向こうは全然元気一杯に攻めて来れる。


 元気一杯なその二の前蹴りは至近距離から来てる、かわし切れない。


 だから右掌で受ける事にした。


 くっ、中々キツい衝撃だ!


「何っ、あいつの蹴りを受け止めただとぉ!?」


 うるさいなその一、黙って戦いに集中してるその二を見習えよ。


 まったく、後で説教してやろうかな。


 その二の蹴りは、体重を乗せた良い蹴りなんだ。


 俺だって右手首に左手を添えて、しかも下半身の力もフルに使って止めてるけど。


 それでも全身が軋むみたいだった。


 だから今は、その一は放っておいてやる事にする。


 そんな事よりも、だ。


 その二が俺の右手を凝視してきてる事と、その俺の淡く光ってる右手からなんか物凄い力が溢れてきてる事の方が、遥かに問題だった。


「その右手の光はまさか、噂に聞く、特定のニホン人だけが持つという――!」


 その二の目が、驚きに見開かれていく。


 唐突にアクアレーナが叫んできた。


「レン様は、その御力おちからを持つに値する方なのですわ!」


 ……成程ね。


 良くは分からないけど、これは普通の喧嘩をしてる場合じゃないな!


 ――4へ続く――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る